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88話/むく
とうとう宍倉くん達3人の対決が始まる。僕はしっかり応援するために前の方に出ようとした。
けど他の人逹も、人気のレースを近くで見たいようで、前列は既に大勢の生徒で埋め尽くされている。頑張ってぴょんぴょん跳ねてみるけど、人垣に阻まれて全然見えない。
あうっ、…このままじゃレースが終わっちゃうよ…。
この対決は、僕のお弁当が事の発端になってるんだから、僕はレースの行方をちゃんと見届けなきゃいけないのに。
ようっし!上が駄目なら下からだ。僕は立ちはだかる人垣の足の隙間から潜り込み、前へ出る作戦を決行することにした。
こういう時にこそ、このちっこさを生かさなきゃ!
四つん這いになり、人垣の間に潜り込んだ僕は、林立する足の隙間を縫って、ちょこちょこと前へ進む。
…よしよし、順調順調!この調子で最前列まで一気に抜けちゃうぞっ!……と、油断したその瞬間。
「ぷぎゃ!」
誰かのふくらはぎが、僕の顔面を直撃した。
「…い、いひゃい…」
目がチカチカする〜。お星様がくるくる回ってるよぅ…。
「うわっ!ムク犬が潰されてるぞ!?」
「なんでこんなとこに!?」
「大丈夫か!?むーくん」
奇声を上げて蹲る僕に気付いた周りの人逹が、心配して声を掛けてくれる。
「…らいじょ…ぶ…れす」
痛むおでこと鼻を擦りながら、なんとか返事をする。あう…。鼻だけじゃなくておでこもぶつけちゃうなんて、鼻が低いの?おでこが出過ぎてるの?
そんなどうでもいい事を考えながら、心配してくれている周りの人逹を見上げた。
「ごめんなさい。レースを前で観たかったの…」
痛みで涙が出ちゃってるし、多分お鼻も真っ赤だと思うけど、心配掛けちゃったからとにかく謝らなきゃ…。
「かっ、可愛…」
「…ヤバい」
「涙目に上目遣いって…」
「最強コンボ過ぎるだろ…!」
なんか上の方で周りの人逹が話してるけど、みんな口に手を当ててるから良く聞こえなかった。
それから、みんなが道を開けてくれたおかげで、無事に前列まで出る事が出来た。
よかったぁ。あのままだと前に出れた頃には、レースが終わってたかも知れなかったもんね。
周りの人逹にお礼を言ってから、集合場所に目をやると、運動部の精鋭達が勢揃いしていた。
ここからでもみんなのヤル気が伝わってくる。凄い緊張感だ。
レースは800mのリレーで、4人の選手が200mずつ走る。優勝の本命は、やっぱりミツくんのいる陸上部。
だけど去年、好勝負を演じた宍倉くんのバスケ部と、トーイくんのサッカー部にも熱い視線と声援が送られている。
僕は期待に胸を脹らませながら、スタートのその時を待った。
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