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91話/たいが

3人同着と言う結果で終わったレース。つまり賭けの勝敗も着かなかったと言うわけだ。 ――そして今。 俺と九条と熊谷は、中庭に広げられたピクニックシートの上に座り、ニコニコ顔で昼飯の準備をするムク犬を見ている。 「多目に作ってきて良かったぁ。ちゃんとリクエストしてくれた料理もあるからいっぱい食べてねっ」 そう言いながら、ムク犬が今朝運んだあのでっかい弁当箱を広げていく。三段の重箱には、沢山の手の込んだ料理が彩り良く詰められていた。 「うわぁ〜!美味しそう。お稲荷さんと筑前煮作ってくれたんだぁ。むっくん俺の為にありがとうねぇ」 「俺の頼んだお握りも、ぜんぶに顔が付いてて可愛いな。しかも表情が一個ずつ違うなんて凝ってるなぁ」 「えへへー。たくさん召し上がれっ」 料理を並べ終えたムク犬は照れながら嬉しそうに笑う。 「笑い顔のお握りは鮭でね、困り顔のは焼きタラコなの、怒り顔は牛肉のしぐれ煮だよ」 お握りの具の説明をしながら、九条に取り皿と箸を渡すムク犬。熊谷リクエストの稲荷寿司の横には、犬の顔に巻かれた巻き寿司まである。 「このわんこのお寿司も可愛いねぇ〜。むっくんみた〜い」 そう言いながら取り皿にわんこ寿司を載せる熊谷。 そんな奴らを見ながら俺はブチ切れそうだった。なぜ俺はコイツラと仲良く円座を組んでいるんだ! そして俺だけの為のはずの愛妻弁当が、なぜ九条と熊谷の為の料理で、それを楽しげにムク犬はよそってやっているんだ! 俺はムク犬が作ってくれるのなら、なんだって嬉しいと思ったから特別注文は付けなかった。 だが、まさかこうして4人で昼飯を囲む事になり、ムク犬が九条と熊谷の為に作った料理を食う羽目になるなんて。 …俺の機嫌はどん底だ。 「あのね。宍倉くんはリクエストがなかったから、サンドイッチ作ってみたんだけど…」 そんな不機嫌MAXな俺に、ムク犬が差し出してくれた皿には、厚切りの肉とたっぷりのキャベツが挟まった、カツサンドが載っていた。 「宍倉くん、お肉は豚が好きって言ってたから」 ニコニコ笑いながら、照れくさそうに俺にカツサンドを差し出すムク犬。俺の好物を聞いてきたムク犬に、肉の中で特に好きなのは豚肉だと言った俺の好みに合わせて作ってくれたのか…。 「…カツサンド好き?」 まさか俺の為にと考えて、作ってくれた料理があるとは思わず、嬉しさで固まる俺にムク犬がちょっと不安そうに聞いてきた。 不安気なムク犬から皿を受け取り笑顔を返す。 「…うん。大好きだよ」 サンドイッチも、ムク犬お前も――。

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