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98話/むく
実行委員の人の話では、これは生徒会長が考えたアイデアらしい。
納得出来ずにいる僕達の前にひょっこりと現れたのは、この首謀者たる生徒会長桜木一馬ことカズ先輩だった。
「おや?まだ着替え始めていないのかい?早く支度しないとレースが始まってしまうよ?」
困惑する僕達を尻目に、何でも無い事のように話すカズ先輩の前に卯月部長が立ちはだかった。
「一馬っ!お前は一体何を考えているっ!何の通達もせず了承も得ないまま勝手に競技変更をして、そのうえ僕達にこっ、コスプレを強いるなど職権乱用にも程があるっ!!」
卯月部長がカズ先輩に食ってかかるけど、カズ先輩は気に止めた様子もない。
「通達は朝の開会式でサプライズを行うよってちゃんとしたじゃないか。了承も何も体育祭って言うのはお祭りだよ?盛り上がって生徒達が楽しめてこそだろう?まったく梨兎は頭が固いねぇ」
「生徒達の楽しみ?詭弁だな。単にお前が愉しんでいるだけだろうっ」
部長とカズ先輩は幼なじみとあって、お互いの気安さからか言葉に遠慮がない。
「そりゃあそうさ。だって俺も生徒の一人だもの。体育祭をより良く愉しくしたいと思って何が悪いの?」
「…このっ…!」
「…あの、本当にもう準備を始めないと間に合わなくなりますよ…」
全く悪びれる様子のないカズ先輩に部長が切れかけたとき、実行委員の人が怯えながら口を挟んできた。
「既に会場には最終種目の変更は伝えられていますし、進行上再び変更するのは余計に混乱を招きます。…か、借り物競走の参加選手は不本意だと思いますがここはどうか協力して頂けないでしょうか」
兎月部長の剣幕に怯みながらも実行委員らしい提案をしてくる委員の人。考えてみたらこの人に罪はないんだよね。
「その通り!さあ、早く着替えた着替えた」
諸悪の根源であるカズ先輩の言葉に、とうとう部長が懐から出したお玉で力いっぱいカズ先輩の頭を叩いた。
シリコン製とは言えあれは痛いぞ…。でも同情の余地はないよカズ先輩!
そうして僕達は渋々とそれぞれのコスチュームに着替え始めたんだけどその衣装を見て驚く。
いやいやいや、これ急に用意出来る内容じゃないでしょ!?なにこの手の込んだ衣装!
改めて周りに目をやれば、借り物競走に出場する選手は一様に小柄な生徒や線の細い生徒ばかり…。
調理部のみんなの急な代役と言い、これって絶対確信犯だ!!
部長は兎耳 カチューシャに水色のアリス風エプロンドレス。真央くんは黒い猫耳カチューシャに鈴の着いたチョーカー、白シャツにサスペンダー付きの半ズボン。シマくんはフワフワの栗鼠 耳とでっかい栗鼠 尻尾の付いたヌイグルミみたいな可愛い着ぐるみ。三葉くんはピッタリとした小鹿 のコスチューム、ちっちゃな耳とお揃いの尻尾がピコピコしてて凄く可愛い。
そして僕はモコモコのチュニックにくるりとした尻尾の付いたショートパンツ。犬耳カチューシャにモコモコの肉球手袋とモコモコニーハイブーツ。
……なんなのこれーっっ!?
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