106 / 139

104話/むく

スタートの合図が鳴らされたのと同時に、ハンターさん達は物凄い形相でカードの入った箱へと向かって行く。 最初にカードボックスに辿り着いたのは、宍倉くん達だった。宍倉くんの手が箱の中から一枚のカードを取り出し、それを確認をする。 宍倉くんは何のカードを引いたの…?ワンコカードじゃなくて他のカードだったら、宍倉くんは他の誰かを捕まえて連れて行くんだよね…。 …ヤ、だな…。そんなの見たくない。 自然と俯いていく僕の耳に、宍倉くんの大きな声が響いてきた。 「ムク犬ーーっ!!」 その声に顔を上げると、僕に向かって真っ直ぐに走って来てくれる、宍倉くんの必死な姿が目に飛び込んできた。 …うそ。宍倉くんワンコカードを引いてくれたんだ…! そして迷いもせずに、僕に向かって走って来てくれている。 僕に向せて差し出してくれたその手を、僕も手袋を着けた手で掴もうとした、その時ーー ーーいきなりの浮遊感に襲われた。 驚いて振り向くと、そこにはトーイくんの姿があった。 「ムクは渡さないっ!!」 え!?トーイくんもワンコカードを引いたの!? ええ!?でもトーイくんは敵チームだから僕を連れて行っても20ポイントにしかならないよ? 僕の隣にはB組の青いリボンを着けたワンココスの選手がいるのに、なんでっ!? そして僕を縦抱きに抱えたまま走り出すトーイくん。 いやいやいやいや待って待ってトーイくん!! このまま連れて行かれたら僕は20ポイントをB組にあげることになっちゃうよ! トーイくんから逃げなきゃ! 「…と、トーイくん!!離して!」 ジタバタと暴れる僕をものともせずに、ゴールに向かって走って行くトーイくん。 「トーイくん!僕を連れて行っても20ポイントしか貰えないんだよ。ちゃんとB組の人を連れて行かなきゃ!」 「俺はムクしか要らないんだよ!」 えええー!なんでーっ!? 「僕は困るよー!トーイくんに連れて行かれる訳にはいかないんだよう!お願い!トーイくーんっ」 僕の必死な訴えを聞いたトーイくんのスピードが少し弱まる。よし!この躊躇(スキ)を見逃しちゃあ駄目だ! 「お願い!トーイくんのお願いもあとで何でも聞くから、今は離して-!」 「…お願い…。何でも…?」 「うんっ!僕に出来ることならなんだってするよ!だから…」 ーーと、そこまで言いかけたとき、僕の体がまた浮遊感に包まれた。 「ムク犬は返して貰うぞっ!九条!」

ともだちにシェアしよう!