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104話/むく
スタートの合図が鳴らされたのと同時に、ハンターさん達は物凄い形相でカードの入った箱へと向かって行く。
最初にカードボックスに辿り着いたのは、宍倉くん達だった。宍倉くんの手が箱の中から一枚のカードを取り出し、それを確認をする。
宍倉くんは何のカードを引いたの…?ワンコカードじゃなくて他のカードだったら、宍倉くんは他の誰かを捕まえて連れて行くんだよね…。
…ヤ、だな…。そんなの見たくない。
自然と俯いていく僕の耳に、宍倉くんの大きな声が響いてきた。
「ムク犬ーーっ!!」
その声に顔を上げると、僕に向かって真っ直ぐに走って来てくれる、宍倉くんの必死な姿が目に飛び込んできた。
…うそ。宍倉くんワンコカードを引いてくれたんだ…!
そして迷いもせずに、僕に向かって走って来てくれている。
僕に向せて差し出してくれたその手を、僕も手袋を着けた手で掴もうとした、その時ーー
ーーいきなりの浮遊感に襲われた。
驚いて振り向くと、そこにはトーイくんの姿があった。
「ムクは渡さないっ!!」
え!?トーイくんもワンコカードを引いたの!?
ええ!?でもトーイくんは敵チームだから僕を連れて行っても20ポイントにしかならないよ?
僕の隣にはB組の青いリボンを着けたワンココスの選手がいるのに、なんでっ!?
そして僕を縦抱きに抱えたまま走り出すトーイくん。
いやいやいやいや待って待ってトーイくん!!
このまま連れて行かれたら僕は20ポイントをB組にあげることになっちゃうよ!
トーイくんから逃げなきゃ!
「…と、トーイくん!!離して!」
ジタバタと暴れる僕をものともせずに、ゴールに向かって走って行くトーイくん。
「トーイくん!僕を連れて行っても20ポイントしか貰えないんだよ。ちゃんとB組の人を連れて行かなきゃ!」
「俺はムクしか要らないんだよ!」
えええー!なんでーっ!?
「僕は困るよー!トーイくんに連れて行かれる訳にはいかないんだよう!お願い!トーイくーんっ」
僕の必死な訴えを聞いたトーイくんのスピードが少し弱まる。よし!この躊躇 を見逃しちゃあ駄目だ!
「お願い!トーイくんのお願いもあとで何でも聞くから、今は離して-!」
「…お願い…。何でも…?」
「うんっ!僕に出来ることならなんだってするよ!だから…」
ーーと、そこまで言いかけたとき、僕の体がまた浮遊感に包まれた。
「ムク犬は返して貰うぞっ!九条!」
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