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閑話/たいが
桜木のサプライズに振り回された体育祭も終わり、俺達にいつもの日常が戻ってきた。
あの『狩り者競争』でルールを無視してムク犬を捕まえた事で、俺のムク犬への気持ちは大勢の生徒達の知る事となってしまった訳だが、俺とムク犬の仲は相変わらず「仲良し」ってヤツのまんまだ。
だがあの競技が終わったとき、ムク犬が何か拗ねてる様に感じられたのは俺の気のせいだったんだろうか?
もしも、あれが俺に纏わり付いていたB組のヤツへの焼きもちだとしたら、大いに脈アリってことになるんだが…。
如何せん、その肝心な事を俺は聞けないでいる。
「まったくヘタレな奴だな」
「うるせえ!てめえだって似たようなもんだろうが!」
呆れ顔の鷹取に思わず言い返してしまうが、そんなこたぁ俺自身が一番分かってるっつーの!
「俺はお前と違って言えねえんじゃなくて、言わねえでいるだけ。時期が来たらちゃ~んと捕まえる」
愉しそうにほくそ笑みながら手元の写真に目を落とす鷹取。奴が持つその写真には黒猫コスの小西が写っていた。
そう、体育祭終了後にあの『狩り者競争』での獲物達の写真が、秘密裏に全校に出回ったのだ。
その出所は生徒会…と言うか、やはり桜木だった。
携帯の持ち込みは禁止されていたが、記録係の写真部は実行委員の許可のもと競技の撮影を行っていた訳だが、この動物コスの写真は体育祭の記録とはかけ離れた写真ばかりだった。
競技が始まる前の恥ずかしがって俯いたり、モジモジしたり、涙目になっていたりする写真から、かなり際どいアングルの写真も多数あった。
結構高額であったにも関わらずその写真は飛ぶように売れ、桜木が負担したらしいコスプレ衣装代が全て回収出来たらしい…。一体どれだけ売れたんだ!?
新聞部調べによる、写真の売り上げランキングの上位は調理部メンバー全員が占めていたそうだ。
つまり、ムク犬のあの可愛すぎるワンココスの写真も相当数出回ったという事になる!
だが、俺がこの写真の存在を知ったのは販売が終了した後のことだった。俺の耳に入ればムク犬の写真販売の邪魔をされる事を予見した桜木によって、完璧に隠された。
そして今、裏切り者の鷹取を前に俺は選択を迫られている!
「で?どうするんだ、買うのか?買わないのか?大雅」
「…ぐっ!くっ…そぅ!」
俺の目の前には、大量のムク犬のワンココスの写真があった。
生徒会からの販売は既に終了している為、この写真を手に入れたければ鷹取から買い取るしかない。だがー!
「てめえ!一枚千円とか、ぼったくりにも程があるだろうが!」
この写真は俺への情報を止めた見返りに、小西の写真も含め、桜木から無料 せしめたに違いないのに、こんな暴利をむさぼろうとはなんてヤツだ!
「要らねえんならいいんだぜ?もっと金払っても欲しがってるヤツはいるからな。むしろ千円で譲ってやる俺の優しさに感謝しろよ」
「…畜生!この守銭奴!」
「友情価格だっつーの」
なにが友情だ!そんなもん金の前には存在しやしねえわ!
このとんでもない仕掛け の数々が、桜木の会長としてのやる気からなのか、ただの悪戯心からなのか、それとも別の何かの為だったのか、それは誰にも分からない。
だが分かっていることがひとつだけある。
ーーそれは、卯月の写真だけは一枚も出回らなかったという事だ。
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