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111話/むく

いろんなことがあった体育祭も終わって、いつもの日常が戻ってきた。 だけども、宍倉くんとの朝の登校は今も続いてる。僕がいつもの車両に乗り込むと優しい笑顔の宍倉くんが、おはようって挨拶してくれる。 僕もおはようって返して、駅に着くまでの間、昨日観たテレビの話や、部活の話、最近あった面白かったこととか、他愛のない話をしながら電車に揺られる。 たくさんお喋りするんだけど、あの体育祭でのことは聞けないまんまでいる…。 優勝が掛かった大事な最終レース。宍倉くんならちゃんと獲物をハントして、きっとトップでゴール出来たはずなのに。 どうしてか僕を捕まえたせいで、チームは最下位になっちゃって、宍倉くんは先輩達にスッゴく怒られた。 なんで宍倉くんがそんな事をしたのか分からなくって、部長に聞いてみたら「九条に張り合いたかったんじゃないの?」って。 やっぱりそうなのかなぁ…。 あのとき、僕に向かって迷い無く手を差し伸べてくれた宍倉くん。 僕はそれが、とっても嬉しかった。 トーイ君に捕まったあと、必死になって僕を奪い返しに来てくれたことも。 ビュンビュン風を切って走る宍倉くんにしがみついて、宍倉くんの鼓動と僕の鼓動が重なって。 まるで僕たち二人だけみたいなそんな錯覚まで覚えたりした。 でもそんな風に感じてたのは僕の方だけなのかな? だって、宍倉くんはB組の子を抱いて連れて来てたって…。トーイ君も、B組の子もそう言ってた。 宍倉くんは、部長が言った通りにトーイ君に張り合ってただけで、僕を捕まえたかったからじゃ…、やっぱりなかったのかな…。 そんな色んなことを、聞きたくて、でも聞いちゃうのがなんだか怖くて…、胸の中に仕舞ったまんまになっている…。 この頃の僕は、宍倉くんの傍にいると気持ちがほわほわってして、顔が勝手に緩んできちゃったり、落ち着かなくってなんだかソワソワしちゃう…。 何でなんだろう…? だからちゃんと聞いてみたらこのモヤモヤしたものの正体が分かるのかなって思うから、聞いてしまいたいけれど…やっぱり聞けない。 だってね。それを聞いちゃったら、せっかく仲良しになれたのに、そうじゃなくなっちゃうかも知れないんだもん。 せっかく、こんな風に仲良くなれたんだもん…。ヘンなことを言って、宍倉くんと気まずくなったりなんかしたくないよ…。 宍倉くんとは、ずっと仲良しでいたいんだ。 友達でも、もしかしたらペットとかだったりしたとしても、こうして宍倉くんと一緒にいられたら、僕はそれでいいんだ! …うん!それで…、いいんだよ…ね…? 「河合!」 「ぴゃあっ!」 突然掛けられた声に驚いてまた変な声が出ちゃった…!うう…。 「あはっ。ゴメンゴメン、また驚かせちゃったね」 「宍倉くん…」 振り返ったらそこには、楽しそうな宍倉くんがいた。 「今日は調理部にお呼ばれさせて貰う日でしょ。部活が終わったらお邪魔しますって、調理部の皆に伝えてくれるかな?」 「あ、うん!わかった伝えておくよっ」 「ふふっ、楽しみだなぁ。今日の献立は何だろう」 「今日はね!昨日特売の卵を部のみんなで買いに行ってたくさんゲットしたから、ふわとろ卵のデミグラスソースオムライスです!」 「わあっ。美味しそうだね!ますます楽しみだ」 「うんっ!いっぱいお腹空かせてきてねっ」 ホラ、せっかくこんな風に仲良く出来てるんだもん。 このままでもとっても幸せなんだもん…。 だからこんなよく分かんないモヤモヤは、胸のうんとうんと奥の方にしまい込んじゃえ!

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