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第120話/たいが
悪夢が続いている…。
これが夢ならどんな悪夢でも目覚めれば覚めるが、残念過ぎる事にこれは現実だ…。
俺はベッドの中で昨日からの騒動を噛み締めていた。
小動物達とガードマン卯月、更に悪魔 共までが乱入してきたことで、避暑地でムク犬との仲を進展させる俺の目論見は完全に瓦解した。
これじゃムク犬と二人っきりになることさえ難しいだろう。
いやいや諦めてなるもんかと決意を新たにした俺だったが、悪魔共 は晩飯に乱入しただけでは飽き足らずなんと人んちの別荘に泊まり込みやがったんだ!
俺は勿論、晩飯が済むと同時にこの悪魔共を追っ払うつもりだった。
だと言うのに悪魔共は遅い時間の帰宅は危ないからとかなんとか、言葉巧みに小動物 どもを丸め込みやがった!
揃いも揃ってデッカイ図体した野郎が四人、そこいらの道端で寝っ転がって野宿したって平気だろうがー!
しかし決定権は何故か家主の俺ではなく卯月にあり、卯月がムク犬たちの要望に「仕方がないね」と頷けば、悪魔共が居座ることは容易く決定された…。
なんなんだ。この理不尽さはーっ!
最悪の気分で下に降りて行くとカートを押すムク犬と出会した。
「おはよう河合。良い匂いだね、朝早くから有難う」
いつもの犬のアップリケ付きのエプロンを着けたムク犬が、心中で暴風雨が吹き荒れまくる俺に気付くことなく笑顔で挨拶してきた。
「おはよう宍倉くん。高級そうな食材ばかりでちょっと緊張しちゃった。美味しく作れてたらいいんだけど」
エプロン姿で満面の笑みを浮かべての『おはよう』
……嫁かな?
たちまち暴風雨は鳴りを潜め俺は心からの笑顔をムク犬へ向けて浮かべた。
「昨夜 のバーベキューパーティー楽しかったねぇっ。ミツくんの持って来てくれたお肉もスッゴい柔らかくてホッペが落ちそうだったし、管理人さんのお野菜も最高に美味しかったぁ。今朝のサラダとスープもね、管理人さんのお野菜を沢山使わせて貰ったんだよー。採れたてのお野菜って本当に味が濃くって美味しいんだねぇ!」
ムク犬は朝から元気に話し掛けてくれるが話題はやはり昨夜のバーベキューパーティーのことで、鳴りを潜めたはずの暴風雨がまたぶり返す。
「美味しい料理にして貰えて野菜もきっと大喜びしてるね」
どこか必死なムク犬の様子に違和感を覚える事は出来ず、俺はいつもの王子キャラでの返答をしてやり過ごしてしまった。
あとからダイニングルームに着いた小動物達と一緒に、ムク犬は出来たての旨そうな朝食をテーブルにテキパキとセッティングしていく。調理室で見慣れたその光景は実家が老舗の料亭だと云う卯月の指導が行き届いている。
その手際の良さに感心していると、悪魔共が匂いに釣られたかのように姿を現しやがった。
「うわぁ~、良い匂い~」
「朝からこんな旨そうなもん食えるなんてサイコー!」
「俺たちの分まで用意して貰って悪いな」
「梨兎の手料理久し振りだな。嬉しいよ」
遠慮の欠片もなくダイニングテーブルに腰掛けていく悪魔共を見ると、昨日とは着ている服が違っている…。
こんっの野郎共!
端 っから泊まる気満々で、ちゃんと着替えまで用意して来ていやがったな?!
どうりで差し入れだけにしちゃ荷物が多いと思っていたんだ!
「あっははっ!その時点で気付きなよね~」
俺の視線に気付いた熊谷がケラケラ笑いながら言って来たことで、今回の避暑地襲撃の首謀者は間違いなくコイツだと俺は確信した。
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