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第122話/たいが

二日目の今日は午前中、近くのテニスコートで遊ぶ予定になっている。 だが、コートは6人のつもりで押さえていたので急に来た野郎共が入る余裕は当然ない。 俺達が楽しむ脇で羨んでいるがいいと内心ほくそ笑んでいたら、桜木がダブルスでやろうと言い出しやがった! 更にペアを組む為のクジをサッと取り出して来たあたり、これも計画してやがったに違いない!! 野郎共が用意したクジは当然細工がしてあったのだろう、連中の望み通りの組み合わせとなっていた。 案の定、俺の相手はムク犬ではなく小西となり、九条の野郎がムク犬とペアを組む事になった。 ムク犬が九条と和気あいあいと笑い合っているのにイラッとしながら俺は疑問を(いだ)く。 なんで熊谷は九条に肩入れしていやがるんだ? どうやら熊谷は以前云ってたようにムク犬に恋愛感情を持っているわけじゃないみてえだし、むしろ今はシマリスを構ってる方が楽しそうだ。 桜木の目当てはもう疑うことなく卯月だろうし、牛島もムク犬に後輩以上の感情は持ち合わせていないだろう。 つまり当面のライバルは九条一人と考えて良さそうだが、その九条の野郎はムク犬に対しての恋愛感情を認めてハッキリと宣戦布告をした上で、俺への対抗心も剥き出しにしてやがる。 この合宿中九条の野郎も当然ムク犬との距離を縮めたいんだろうが、俺が苦心して取り付けたこの合宿に後から割り込んで来てムク犬に近づこうなんて許せるわけがねぇ。 そっちが邪魔する気満々なら俺だって手加減なぞするものか! ただなぁ。 ムク犬の方の気持ちは、俺にも九条にも友達以上の感情はないのは分かりきってるんだよなぁ。 俺と九条、どちらにより友誼を感じているかは判らないが、今下手に動けばムク犬に引かれてしまう畏れがある。 俺は元々バイで、女でも男でも気に入った奴とはヤッていた。所謂カラダだけの付き合いってヤツ。 だから心を手に入れたいと思ったのはムク犬が初めてで、俺はムク犬が初恋ってことになる。 …改めて言葉にすると何とも気恥ずかしいが! そしてその初恋の相手のムク犬はまだまだ恋愛なんて考えてもいなさそうなお子様。 女相手でも経験がなさそうなムク犬に、いきなり男相手の恋愛なんてハードルは高いだろう。 だから俺は友達以上の関係から少しずつ恋愛へと持ち込みたくて、非日常的なこの避暑地を選びムク犬の気持ちの変化を狙うつもりでいたんだ。 「僕の相手は宍倉くんかぁ」 「よろしくね、小西」 ペアを組む事になった小西と挨拶を交わしていると視線を感じた。振り向くとムク犬と目が合う。 ムク犬はちょっとぎこちなく笑いかけてきた。 「えへへ…テニス楽しみだねっ」 「うん、チームは分かれちゃったけど楽しもうね」 今日はレモンイエローのサマーニットとお揃いのニット帽(当然イヌミミ付)とキャメルのショーパンに身を包んだムク犬。今日の姉貴コーデも良く似合っていて可愛い。 色々気になる事はあるが、こうして普段見られないムク犬と一緒に居られるんだから言葉通りに楽しまなくちゃ勿体ないな。 だが、さっきのムク犬らしくない笑みは何だったんだろう? ******* ムク犬の事を色々言ってるけど自分も恋愛初心者なニブちんヘタレライオン(笑)

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