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第124話/たいが

今日の姉貴コーデのムク犬ファションも可愛いかったが、スポーツウェアに着替えたムク犬の破壊力はハンパなかった! 姉貴は神か! しかしスポーツウェアであることを配慮してシッポが取り外し可能だったのは残念至極! あのシッポをフリフリしながらプレイしてくれたなら最高だっただろうに! しかし、相手コートで前衛に立ったムク犬を見てその気持ちを取り下げる。あのポジションじゃ後衛の九条がムク犬のフリフリシッポを堪能するだけじゃねえかっ! 取り外し可能にした姉貴、やはりグッジョブだ! さて、それじゃ九条の奴を無様に叩きのめすのと同時に俺の格好いいところを見せ付けてやるとするか。 サイドラインギリギリに沈めた俺のサーブは九条に追いつかれて逆にリターンエースを狙われる。 俺もすぐに回り込み九条の足元を狙って打ち返すが、九条は冷静に逆サイドを狙って打ってきた。 俺はそれにどうにか追いつき九条の真正面に打ち返してやったが、それに瞬時に反応した九条はラケットを体の前に構えて対処しやがった。 ちっ!やっぱり一筋縄じゃいかねえか。 悔しいが九条の身体能力はかなり高いうえに、サッカーで鍛えてるだけあって瞬発力も体力もありやがる。 それに劣る俺じゃないが、簡単にねじ伏せられる相手でもないのは認めたくはねぇが確かだ。 思っていたより手応えのある相手にムキになる余り、俺はこれがダブルスの試合だと云うことを忘れてしまっていた。 何としても先にポイントを取ってやると躍起になった俺は九条を振り切ろうと、力一杯逆サイドに打ち返す。 だがその球は前衛に立つムク犬の方へ行ってしまった…! 「()けろー!!ムク犬!」 スピードに乗った打球はムク犬に避ける(いとま)を与えず、ムク犬の顔面を目掛け飛んで行く。 ムク犬が目を瞑りラケットを持った手で顔を覆う姿が目に入るが、ここから防いでやることは出来ず為す術なくただ見守るしかない! バシュッ…!! そんな情けない俺の前で、ムク犬の眼前まで迫っていたボールが弾かれるような音を立ててて軌道を変えた。 「…え…?」 何が起こったのか分からず呆然とする俺。 「ぐふっ!!」 そんな俺の鳩尾にいきなりボールがめり込んだ。その余りの痛みに思わず膝をつく。 「宍倉!九条!二人とも失格だ、コートから退場しろ!」 鳩尾を抑えて蹲る俺の耳に冷ややかな卯月の声が届いた。 「りっくんナイスショット~!でもあの眼前まで迫った打球をボールで撃ち落とすなんて凄すぎるよ~」 どうやらムク犬を助けたのは審判をしていた卯月だったことがわかった。 そして俺の鳩尾にボールを打ち込んだのも間違いなく卯月だろう。 相手コートを見ると俺と同じように腹を抑える九条の姿がある。 「ごめん…!河合、大丈夫だった?」 鳩尾の痛みを堪えながらムク犬の元へ行こうとするが、卯月に腕を取られコートの外に放り出される。 「退場って言ったのが聞こえなかった?これはお前達だけのゲームじゃない。熱くなって周りが見えなくなった挙げ句ムク犬達を危険に晒すなんて、プレーを続ける資格はない!コートから出て行け!」 絶対零度の卯月の視線と声音にスゴスゴとコート脇のベンチに下がる。 続いて九条も隣のベンチに下がってきた。 ああぁっ~、なっっさけねぇ! 卯月の言うとおりだ…。 良いところを見せるどころか頭に血が(のぼ)って前衛の存在を忘れムク犬を危険に晒すなんて…。 卯月が防いでくれなきゃ確実にムク犬は怪我をしてただろう。 どうやら九条も俺と同じ心境のようで落ち込んでるみてぇだ。 俺達が去ったコートではムク犬と卯月、桜木と小西がチームを組み直し楽しそうに試合を続けている。 …何やってんだ、俺は。 計画が(ことごと)く狂いイラついていたところに、九条達の出現で気付かぬうちにイラつきがピークに達していたのか、すっかり冷静さを失っていた。 ムク犬を取り合っての勝負だなんだなんて、純粋に避暑地での合宿を楽しみにして訪れたムク犬や調理部メンバーには全く関係のない話だ。 そして、本来ムク犬を落とす目的がすり替わった合宿話でも、調理部メンバーを誘ったのは他でもない俺自身。 けして俺の都合や感情で振り回して良いわけじゃない。 そんな当たり前のことがわからなくなっていたなんて。 熊谷や桜木の思惑はわかんねぇし、九条が目障りなのは変わらねぇけど、ムク犬達が楽しみにしていたこの合宿を俺の個人的感情で台無しにするわけにはいかない。 ちゃんと合宿を楽しんで、そのうえでムク犬との仲を深められるように気張んなきゃな。

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