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第128話/たいが
更衣室から出たところで大学生らしき女共が一緒に昼食に行かないかと声を掛けてきたが、店に予約を入れているからと熊谷がキッパリと断った。
それでも何処の店かと聞いてくるので店の名前を告げると、一旦は引き下がる素振りをみせた。告げた店の名は、予約なしでは入店出来ない有名店だったからだ。
その後も女共はしつこく食い下がったが、卯月の威嚇によってようやくその場を後にする事が出来た。
…ん?予約は俺達6人分しかいれてないよな?じゃあ当然ながら野郎共は一緒に食えねぇって事だよな!
同じ事を思ったらしいムク犬が熊谷に尋ねるとすでに4人分の予約を入れていたらしい。
「でもよく急に予約とれたね?」
「モチロン俺達も事前に予約しといたよー。明日以降のお店の予約もバッチリだから一緒にたべようねぇ」
「…だから夏休み前に僕達の合宿予定をあんなに詳しく聞いてきてたんだね…」
「ふふ~、むっくん嬉しそうに話してくれたもんねぇ」
内心で喜んでいた俺だったが、熊谷の発言に肩を落とすしかなかった。
…こりゃもう俺達の予定は全て把握されていると思っといた方がいい。
くっそー!!
洒落たカフェでの昼食を終え、卯月の希望した美術館をゆっくり鑑賞し帰宅の途につく。
夕飯のメニューを話し合う小動物たちの傍らで、ストーカー共が別れを告げてきた。
てっきり今日も俺達の別荘に居座るつもりだと思っていたから意外だった。
「え?みんな帰っちゃうの?夕飯は?今日は手の込んだ物は作れないけど4人の分も作るつもりだったのに」
いやいや、ムク犬!せっかく帰ると言ってるんだから引き止めたりするんじゃない!
「ふふっ、有難う。でも昨日からお邪魔しっぱなしだったからね、今日はお暇するよ。明日、馬場で落ち合おう」
桜木がそう言って手を振りながら牛島と帰って行く。
「じゃあね~。今日は楽しかったよ~、また明日ねぇ」
「今日は怖い思いさせてゴメンな、ムク。明日も楽しみにしてるな!」
意外な事に熊谷と九条もあっさりムク犬に手を振っている。てっきりずっと邪魔されると思っていたからなんとも拍子抜けした。
そんな俺の心の内を読んだように熊谷が言う。
「ちょっと流石にやり過ぎたかなぁ~と思って~。初日から押しかけて無理矢理そっちの予定に割り込んじゃったから、王子もイライラしちゃうのが当たり前だよねぇ」
「それで合宿の雰囲気を悪くすることになれば悲しむのは調理部の子達だもんな。一応この合宿をセッティングしてくれたのはお前なんだし、あんまり不義理な真似をするのは筋が通らないからな」
「ただし、明日の予定にはしっかり合流するからそのつもりでいてね~」
じゃあまた明日ねぇ、と軽く手を振って2人は帰って行った。
…そうか。テニスでの事気にしてくれていたんだな。
幸い卯月のおかげで何事もなく済んだが、一歩間違えれていれば大惨事になっていたかも知れなかったと思うとゾッとする。
パチンと両頰を打ち、俺は改めて反省し直した。
明日からも皆で楽しめるようにちゃんと自分をコントロールしなきゃな。
別荘に帰り着き小動物たちから、夕飯の支度が出来るまでゆっくり寛ぐように言われた俺はリビングでテレビを点けて雑誌に目を落としていると、パタパタと云う足音共にムク犬が顔を覗かせた。
「宍倉くん!管理人さんから美味しそうなオレンジが届けられてたからジュース搾ったんだけど飲まない?」
キッチンから響いてくる夕飯の支度をする音に心地良さを感じながら寛いでいた俺に、ムク犬が搾りたてのオレンジジュースを持ってきてくれた。
いつものエプロン姿で俺にコップを手渡して、もうちょっとで夕御飯出来上がるからあと少しだけ待っててねと、俺の好きな笑顔を向けてまたパタパタと可愛い足音を立ててキッチンへと戻って行く。
その後ろ姿を見送りながら、この先もこんな風に暮らしていけるならどんなにか幸福だろうと思った。
昨夜は悪夢に魘されてよく眠れなかった俺は、そんな事を考えつつウトウトと微睡みながら夕飯が出来るのを待つ。
きっと今日の夕飯も温かくて幸せな味がするんだろうと思いながら。
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