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2.スーパーダーリンご降臨②

「にしても、王子ボロ負けしすぎじゃない?」 「うっせーさっさと咥えろ唯月!」 「名木のエリートを地に墜とすって計画はぁ?」 「はっ、テニスなんかで飾らなくても、お前の技で落せばいい話だろ。なぁ、名木がこっち来るまでに俺のことイかせろよ」 「ふーん、まあいいけど」  まずは試合の労いとして、壁際に立った王子を一番に俺は、膝たちになって咥える。もう本日は二度目のフェラだ。まあ一日に何回もすることだって珍しくない、サルみたいな性欲の俺たちだから仕方ない。口いっぱいに頬張って、ぐちゅ、と頬の裏側で先端を擦っては、じゅじゅっと喉奥まで咥えて吸い上げると簡単に、王子はその細め長めの性器を勃起させる。そうすると両脇にメガネとカロリーが立ってズボンを下ろして、性器を露出させては俺に『唯月ちゃん、手でしてv』と強請ってくるから言われた通りに両脇の男性器も手でこする。 (名木……それにしてもテニスもできるなんて凄いよな)  じゅぽじゅぽとピストンしながらよそ事を考えているうち、また例の劣等感に苛まれてはざわざわする。ざわざわしているとその内イライラしている王子にガッと頭を引っ掴まれて、そのまま良いように口を使われてイラマチオ状態になって、息苦しさと雄臭さに俺もホットパンツの中の性器を勃起させてしまう。 「んっ、んん゛っv んっv」 「はっ、はっ、はぁっ、唯月っ、喉に出すぞっ!!」 「俺もっ、唯月ちゃん……出るっ」 「こっちもだっ」  勢いのある王子に合わせて、俺は両脇二人にもラストスパートをかけたのだ。俺は男たちを、同時にイかせることがうまい。どぴゅっ、ぴゅーv と俺の喉奥と横顔両脇に、同級の男たちは射精をする。その、男たちが射精をした瞬間に、名木は部室にラケット二つをもって戻ってきた。 「戻りました、唯月これ……、」  と言ったところで名木ははた、と目を見張る。無理もない、そこではさっきまでニコニコしていたかわいい子ちゃんの俺が、男のものを咥えて握って、目にハートを浮かべて喜んでいたのだから。ひとしきり射精をして、ググっと俺の掴んでいた頭を離して(俺も口から性器を抜き取って)、王子は『ははっ』と空笑いをする。名木の方をにまーっと見やる。 「ヨォ、遅かったなぁエリート坊ちゃん? おっせーから先、唯月の口マン一発貰っといたぜ」 「これは……唯月。どういうことだ? 無理やりされているのか?」 「ぷぁっ、はぁっv 何言ってるの名木。俺、俺たちのサークル、本当はこういうところなんだよv」 「は」  俺は立ち上がって、ザーメンまみれの顔でするっと名木の方に腕を回す。メス顔を名木の耳元に近づけて、囁く。 「ねえ名木、名木も俺にシテ欲しいだろ? まだ仮部員だけど、名木は特別に今日からしてあげるv」 「唯月……」  俺が色っぽく誘っているというのに名木は、冷静そのもので眉を曲げて、ザーメンまみれの俺の頬を、その綺麗な、ピアノを弾くための指で拭う。 「唯月お前、寂しいのか」 「はっ?」 「寂しいから、男たちとこういうことを繰り返していたのか?」 「なっ、何言って……」  まただ。また。名木の言葉を俺をざわざわさせる。図星を突かれて俺は目を泳がせる。その間にも名木はポケットからハンカチを取り出して、優しく優しくおれの顔を拭いてくる。寂しいから、俺は、劣等感を埋めるために俺は……王子がケラケラ背後で笑っている。 「なーにいってんの真面目くん! 唯月は真性のビッチなんだよ。俺たちの可愛い可愛い肉便器v 名木の坊ちゃんも仲間に入るかって聞いてんの!!」  そのセリフに、ギラっと名木の秀麗な目元が光った。すっと俺の両肩を掴んで俺を一旦引き離して、名木は王子のいる壁際の向かう。ずいっと王子にそのイケメンで凄んでは、急に冷静じゃない。胸ぐらをつかみ上げては王子の細身を、その馬鹿力でもって宙に浮かせた。『うおっ!?』と王子。 「王子くん、今のは口が過ぎる」 「ちょっ……なんだよ急に!? おっ、降ろせよ馬鹿!!」 「唯月は決して、お前たちの『肉便器』なんかじゃない。唯月は、」 「なんなんだよぉっ!? ぐっ、くるしっ……」 「唯月はとても繊細な人間だ。唯月を傷つけるような言葉は慎め」  俺が、『繊細な人間』? 俺はぽかんとその小さな口を開けっぱなしにして、王子に凄んでいる名木の横顔を眺める。名木、俺は皆の肉便器で、男狂いのただのメス男子だよ。思ったがその緊迫した雰囲気に、俺は言葉を発せられなかった。メガネとカロリーは取り急ぎブツをズボンに仕舞っては、焦って名木の肩を後ろから叩いて『ま、まあまあ名木くん』『落ち着けよ』と宥めている。それでも、 「撤回しろ、王子くん」 「へっ」 「唯月は君たちの友達だろう? だから、ビッチだの肉便器だのは撤回しろよ」 「だっ、だーれがお前の言うことなんか! 大体唯月がビッチなのはマジで事実だっ……」  王子の言葉に、ふいに名木が右の腕を振りかぶったから、俺は焦って名木の背中に飛びついた。 「名木っ!!」 「……唯月、」  俺が抱き着くと名木はぎらつかせて怒っていた表情を甘くして振り返って、振りかぶっていた手を下ろす。掴み上げていた王子をどさっと地べたに降ろす。そうして俺の金のインナーピンク髪を、俺を抱き返しては撫ぜてくる。 「だっ、ダメだろお前! 暴力とか……だってお前の手、ピアノのためにあるんだろ!?」 「唯月、」 「と、とにかく俺は大丈夫だから落ち着けよ」 「……ああ。ここは唯月に免じて、見逃してやる」  って俺、何止めてるんだ。エリートくんが暴力問題となれば、俺が当初予定していた『エリートくん堕落コース』まっしぐらだったのに。俺は、俺はどうして少しだけドキドキしているんだろう。名木に撫ぜられている頭が頬が、抱きしめられた身体がぽっぽと火照りだす。うう、居心地が悪い、というかむずむずする。 「唯月、俺はこのサークルに入るよ。サークルに入って、唯月がさっきみたいに扱われないか監視する」 「えっ、入るの!?」 「ダメか?」 「い、いや……別に良いんだけど、でも、」  でも俺の、寂しさ劣等感を埋める行為に、こいつは邪魔に入ってくるのではないか。今の行動を見てそういう不安を覚える。名木は首を傾げて優しげな瞳で俺を見つめて、それからふっと笑って言った。 「それはそれとして、唯月。レジュメのコピーを取りに行こう。彼らにも貸すんだろう?」 「あっ、そ、そうだったね。うん……行こっか」  完全にとはいかないけれど、だいぶん綺麗になった顔で俺は、ちらっと呆然としている三人の部員を振り返っては『そ、そーゆーことだから』と気まずい言葉を置いて、名木に手を繋がれて大学構内のコピー機のある売店の方へと向かって部室から出て行った。にしても……名木、どうして俺のあんな姿を見て、すぐに『寂しいのか』なんて言ったのだろう。歩いている間考えて、ハッとする。そうだこいつ、俺の家柄を知っているのだ。きっと俺が、万年銀賞の落ちこぼれであることも。それであんなこと、庇うようなことするだなんて。こいつ、俺のことを『かわいそう』とでも思っているのか? 思うとずんと暗い気持ちが押し寄せてくる。みんなに見られているのに手を繋いで離さない、一歩前を行く名木の後姿を恨めし気な上目で睨みつける。やっぱり、やっぱりこいつは、俺に『堕とす』べきだ。挫折を知らないエリートくんに、挫折を味わわせてあげなければいけない。いつか快楽に、男同士のホモセックスにハマらせて授業だってピアノだってさぼらせて、あの技術力だって奪ってやる。思っているうちに売店に着いて、鞄から一年の必修講義のレジュメを取り出した名木に『ほら』と促されては俺は、取りあえずはそれのコピー作業に移ったのだった。

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