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3.君と、恋がしたい②

「唯月、遅くなってすまない。ピアノを弾いて頭を冷やしてきた」 「……名木?」  俺に滅茶苦茶言われて、追いかけても来なかったからやっぱり俺に失望したんだと思っていたエリートくんの名木が、ヤリサーの部室にズカズカ土足で踏み込んでくるから俺は疑問符で一杯だ。俺の過去を知る男。俺の『かわいそう』を知る男の登場に、俺の心はまたざわざわしだす。暗くなりそうな気持ちを制して、余裕ぶって『ハハ』と空笑いをしては、俺はまた尻で王子の男性器を刺激する。『ぐっv』と王子のうめき声。 「なんだよ名木。お前も『かわいそう』な俺のこと、身体で慰めにきたのか?」  淫乱に腰を揺らしながら、俺は王子をまたその気にさせる。王子は名木を気にしつつも、俺の動きにまた絶倫、むくむくとそれを勃起させて彼の腰をも揺らす。名木はそんな俺を見て、ヤリサーの同級メンバーを全員見渡して、それから『はぁ』と、何のため息なのか、とにかく溜息を吐いた。 「唯月、俺は決して君のことを『かわいそう』だとは思っていない」 「はっ、だったらどうして俺の絵のこと、ひゃんっv」  ずぷっと王子に挿入されて、高い声を上げてぶるっと身体を震わせる。そのまま名木を半分無視してピストンをまた開始しようとしたところ、名木がズカズカとセックス中の俺と王子の前に歩み寄って、俺の細腕をガシッと掴んでは、挿入はしたままで動きを止めてくる。 「君の絵は、両親の操り人形だった俺の心を動かした。君の絵は昔も今も、俺には一番なんだ」 「はっ……一番?」 「君の『寂しさ』『切なさ』を、俺は自分と共有したいと考えていた。この大学に君が入学したと聞いて、ずっと、君と接触したいとも」 「……はあ」 「君の絵は、存在は、俺のピアノを変えるだろう。俺には君の絵が、君の存在が必要なんだ」 「はあ?」  俺が、一番? 万年銀賞の俺の絵が? 奇才でプロの兄ちゃんには到底及ばない、同級生にも勝てなかった俺の絵が、必死に繋ぎ止めようとしたヤリサーの、先輩方だってろくに堕とせない俺の存在が、このスーパーエリートくんにとって『必要』とは、どういうことか。考えていると名木が、王子と繋がったままの俺の肩をグイっと掴んで自分の方に正面向かせる。『だから』とそのまま言葉を続ける。 「俺は君と、恋がしたい」 「へっ」 「君と、恋がしたいんだ。それだけが俺を変える、唯一の道だと中学生のころから信じてきた」 「はあっ!?」 「唯月、俺と恋をしよう。好きだ、ずっと。まだ顔も知らない頃からずっとなんだ」 「なに言っ……んむっ」  名木が俺に、キスをしてきた。それも何度も言うが、王子とセックス中の俺に、である。さっき俺に先にキスしようとした王子は終始ポカンとしていて、一方キスしながら名木は、俺の腰をぐっと掴んで持ち上げて王子から抜き取るから『んっv』と俺は一気に抜かれる感覚にプルっと身体を震わせる。そのまま半裸の俺を床に立たせて腰を抱き、名木はキスをやめて至近距離、俺に向かって囁きかけてくる。 「君がいつ、誰とセックスしようと構わない。ただこれからは、俺のことも見てほしい」 「……な、名木」 「君は俺の唯一の『一番』なんだ。それだけは唯月、分かってくれないか」  そのまま抱きしめられる。男と乱交中だった俺を名木は抱きしめる。抱きしめられると、俺の心が、身体が『ぽぽぽ』と熱を持つ。名木の一連のセリフに俺は、いろんな過去を思ってでもだからって、こんなエリートくんに俺の気持ちが分かってたまるか! とそういう気持ちもあって、逞しい胸筋に押し付けられていた頭をぶんぶんと振り、ぐいっと名木から半裸の身体を離して反論しようとして、 「そんなこと言ってお前っ」「だああっ! なんなんだよテメー!? 唯月は俺とヤってたんだっつうに!! 横から入ってきて唯月にキスなんかしやがって!?」  王子と声が重なった。王子がお怒りで、まだ勃たせたままで起き上がって俺と名木の横に立っては名木の高い鼻先をビシッと指で突き刺す。 「何が何だがわっけわかんねーけどよ、唯月はこのサークルの『姫』だ! お前も唯月とヤリてーなら、まずはこのサークルに入って皆と共有することだな!!」 「王子くん。このサークルに入ったら、唯月を落としにかかっても構わないと、そういうことか?」 「ヤっても良いっつってんだよアホが! 言っただろ、唯月は皆の姫なんだっつーの!!」 「わかった。元から入るつもりだったが、正式に俺を、このサークルのメンバーにしてくれ」 「っぐ。お、おう……だったら先輩方にも、許可取りしろよ」 「その『先輩方』は今は講義か?」 「それは合コ……ゴホン。いや、まあそんな所だ。また明日、日を改めてここに来い」 「わかった」  そこまで言うとチラッと名木は俺を見て、俺をひょいっと抱き上げると手早くソファーに座らせて下穿きを穿きなおさせて、シャツのボタンも留めては俺と、手を繋いで俺を引っ張る。 「じゃあまた明日、王子くんと……君たちも」 「お、おう、ってオイ何を唯月を連れてこうとしてんだ!?」 「……唯月、今日はもう行こう」 「え、あ、えっと?」  戸惑って名木を見て、さっきまでヤっていた相手の王子を見てメガネとカロリーを見て、俺はポっと頬を染めては何となく、再び名木の方に付いていくことにした。 「そ、そういうことだから……また明日」  なんだかデジャヴを感じる、ビッチなメス男子である俺のセリフである。とはいうものの、俺だって簡単にこの男に落ちてやる気はない。ここまで言われて『君と恋がしたい』なんて言われたって俺は、まだまだブンブンと首を振って名木のセリフを頭から払い、無理やり頭を切り替えては思い直す。 (なんだコイツ、俺のこと好きなんじゃん? だったらやっぱり俺にハマらせて、ピアノの腕も鈍らせてやる!!) 『君の絵は、存在は、俺のピアノを変えるだろう。俺には君の絵が、君の存在が必要なんだ』  俺と名木の思いが交錯する、俺たちの恋が今、始まろうとしていた。

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