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4.スーパーダーリンと、お兄ちゃん①

 大学を出るとどこへ行くでもなく名木と並んで並木道を歩いて、その間名木はずっと黙ったままだったからこっちが耐え切れなくなって俺は言葉を紡いでみた。 「名木、これからどこいくの。帰る?」 「……唯月、すまない。俺、強引に君にキスをしてしまった」 「えっ!? あ、はは。キスなんかなんでもないよ」 「俺の恋心を、分かってほしくて」 (恋心とか……よくそんな寒いセリフ平気で言えるよな、)  ごく真剣な名木に俺の内心はそういう感じで、でも反して身体は顔は『ぽぽぽ』と熱くなってしまう。確かにキスなんかは、セックスするだけの仲のサークルメンバーとは全然しない。大体男性器を咥えている俺の口と、キスしたがるメンバーはあまりいない。しかし高校生のころ、遊び半分で同級生にされていた過去があるし、まあ俺にはキスだって初めてってわけじゃないのだ。そんな風に考えて、二人はまた沈黙して、それからするっと名木に手を繋がれてドキッとする。 「唯月、」 「は、ハイ?」 「君の部屋に行ってみたいんだけど、駄目か?」 「俺の部屋? 普通の学生の部屋だよ。特別なことなんかなーんにも……あっ、それなら俺、名木の部屋を見てみたいな」 「俺は、まだ実家暮らしなんだ。昼間は両親はいないけれど、手伝い達がいるから」 「へー、お坊ちゃまだねぇ」 「そうか? 唯月の家には手伝いはいないのか」 「そんなのいないよ! まあ離れくらいはあって、そこが兄ちゃんのアトリエになってるけど」 「阿須間京介さん?」 「……そう、絵描きの阿須間京介。両親が、実家に引き留めてるんだ」 「俺と同じだな」 「え?」 「俺も両親に引き留められて、一人暮らしをさせてもらえなかった」  だったら兄ちゃんと恋でもしたら、分かりあえるんじゃないの? と、そういう言葉が喉から出かかって、嫉妬しているみたいだと止める。俺の部屋は大学の徒歩圏内だから、名木とそれから何を話すわけでもなく歩いて、俺の住むオートロック式のアパートに着くと鍵を開けて、俺たちはアパート内、さらには俺の部屋の中へと入っていった。 *** 「どうぞ、入って」 「お邪魔します」  名木は玄関で礼儀良く一礼して、俺の家も金だけなら結構あるからまあまあ良いアパートのリビングに足を踏み入れる。そこには俺も絵画専攻だから、一応のイーゼルと真っ白な画用紙があって、課題を消化するための油絵の具なども散乱していてそれでも描き上げた絵などは一枚も飾っておらず、名木が『む、』と顎を引いて俺を振り返る。 「君の絵は、飾っていないのか」 「当たり前じゃん。俺、自分の絵、嫌いだもん」 「……君の絵には、人の心を動かす力がある」 「西城(さいじょう)の方がそうだって、先生も教授もそう思ってるよ」 「西城、ああ……例の金賞常連の彼か」 「名木だって、俺の絵を見てたなら西城の絵、見たことあるはずだよ」 「記憶にない、君の絵にしか興味がなかったから」  そこまで言われると、じわっと目の端に涙が浮かんでしまう。すぐに振り払って(本当かよ、)と言おうとして思うだけに留めては、衣類の散らばったソファーを片付けて名木をそこに座らせる。自分は一応来客だからとキッチンの方に立っては名木に尋ねる。 「コーヒーでいいかな」 「ありがとう、唯月」 「砂糖とミルクは?」 「必要ない」 「おっとなぁ、ブラック派かよ」  ケラケラ笑って名木の言葉を忘れようとして、コーヒーの香りに鼻をぴくつかせては『ふう』と落ち着く。二つのマグカップにコーヒーを入れて(自分のにだけ砂糖とミルクを入れて)、ソファーの前のガラステーブルに二つ、それを置く。名木の隣に座ると、名木が自然に手を繋いできた。それにまたドキッとして、名木は何でもないようにもう片手でコーヒーを嗜んでいるのに……こいつは天然タラシってやつだな。と、馬鹿らしくなる。俺ももう片手でコーヒーを飲む。 (そういえばこの部屋に人を入れるの、兄ちゃん以外では初めてだ)  兄ちゃんは両親に依怙贔屓されて育ったけれどなぜかブラコンで、実家から俺の様子を、ちょくちょく見にやってくる。だからマグカップも二つあるのだ。名木が使っているのは兄ちゃんのカップだ。お客様用のものがなくて申し訳ないけれど、まあそこまでは言う必要はないだろうと甘いコーヒーに舌鼓を打つ。しばらく静かに二人でそうしていて、何となくまったりしてからやっと気が付く。そうだ俺、こいつを落とさなきゃいけないんだ。早速だけどことに及ぼうと、俺はこてっと名木の肩に頭をのせて甘えるふりをする。 「唯月」  すると名木は嬉しそうに目を細めて、甘えているふりだっていうのに俺の頭を甘く撫ぜてきて、まるで本当に甘えているみたいに俺は気持ちよくなってしまう。こんな風に他人に撫ぜられるのは、いつもだったらフェラをしている最中くらいだから、温かい。兄ちゃんも昔は良くこうして撫ぜてくれたけれど、普段は(普段は)彼も、俺に触ることをしないし。 「そんな風に甘えられると、君と恋人にでもなったような気分になってしまう」 「ふふん、どうとでも思っていいよ。名木、ねえエッチしよ?」 「……唯月は今日は、疲れてはいないのか」 「あれくらいでバテてたら、サークル全員の相手なんかできないってば」 「コンドームを、持っていない」 「ゴム無し上等、ローションだってたっぷり備蓄があるよ」 「俺は君に……そういうことを求めては、」 「もー、何なの名木!? 俺とセックスしたくないわけ!!?」 「そういうわけでは。ただ、唯月、」  戸惑うように目を泳がせる名木のモテモテ男前を見上げて、俺は名木の前に膝をついて名木のチノパンを引きずりおろす。ボクサーパンツの上から股間に頬ずりして、布越しにぱくっと咥えて舌で転がすとそこはむくむくと成長する。名木が『っ、』と息をのんで俺の頭を押し返そうとするのを無視して、ぶるんっと勃起した名木の性器を下着から取り出した。 「うわっ、でか……」 「唯月、そ、そういうことはお付き合いが始まってからで」 「うるさいなぁ。この唯月ちゃんが自らフェラしてあげようってのに、何がそんなに不満なの……んっv」 「くっ、」  じゅるっと先端を吸い上げると、早くも名木の先走りの、独特な味にうっとりする。じゅぽっと奥まで咥えるとそれは喉奥まで届くほど長く、太く、これを尻で咥えることを思うと俺も、きゅんきゅんとアナルが疼くくらいだった。ずるっといったん抜き取って、じゅぽっとまた咥えるのを繰り返す。根元を手でこすって、玉をもう片手でころころと弄ってあげると名木はあっさり……、 「唯月っ……でっ、出るから口を、」 「なんれ? 飲んであげるよv」 「きっ、汚いから、唯月、ゆっ!?」 「んっv」  喉奥まで咥えた処でどぷんと名木が射精をした。それをごっくんして、ずぼっと性器を口から抜き取り、汚れた口の端を拭って俺はにっこり笑う。 「んはっ、ごちそうさま、名木v」 「はっ、はー……唯月、」 「ん、なに? その気になった?」 「俺……俺は、こういうことは初めてなんだ」 「えっ!?」 「中学生のころから、ずっと君に恋をしていた。ずっと君一筋だったから、他の誰にも傾くことはしなかった」 「それって、えっ名木、童貞ってこと!?」 「でも、勉強はしてある。男同士のことも、」 「ふわっ」

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