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4.スーパーダーリンと、お兄ちゃん③
その間にも何度もインターホンが鳴る。俺はやっと支度を終えて、立ち鏡で自身の立ち姿を見て、いつもの大学用のホットパンツだけれどもうそこは仕方ないから寝室の扉を閉めてはインターホンに出る。
「はいっ、兄ちゃん?」
『唯月、いたのか。出かけているのかと思ったぞ』
「うんっ……ちょっと眠っちゃってて、ごめんね今開ける」
アパートのオートロックを開けて、再び部屋の前からチャイムを鳴らす兄ちゃんに、俺は玄関まで駆けて行って扉を開ける。扉を開けると絵描きだからスーツではない、しかしかっちりした私服の、眼鏡姿のイケメンな京介兄ちゃんが眉を曲げた。
「……唯月、なんだその格好は」
生足がにょきっと出た、ホットパンツのことである。兄ちゃんは俺の部屋にくる以外はほとんど出かけないから、俺が外でどんな格好をしているかは知らない(髪の色はまあ仕方ない、知っているけど)。『あはっ』と苦笑いして、兄ちゃんを部屋に入れるべく背中を押しながら、言い訳する。
「部屋着だよ、部屋着! 寝てたって言ったじゃん」
「そうか……唯月、夕飯はまだか?」
「うん、まだだけど」
「なにか簡単なものを作ってやる。台所を借りるぞ」
「えっ……食べてくの!?」
「何か問題でもあるか?」
夕飯を作って、食べていくとなると寝室にいる名木に長時間待ってもらうことになる。困ってどうにか断ろうと頭の中で画策している内に、ふいに兄ちゃんが、テーブルの上の二つのカップに気が付く。
「……誰か、来ていたのか」
「あっ、そうなんだ。さっきまで、友達! ごめんね兄ちゃんのカップ借りちゃって、」
「……」
兄ちゃんは眉を曲げてやまない。すん、と高い鼻を動かして、俺の身体の匂いを嗅いでくるからババっと俺はその場から身を引く。が、しかし。
「寝室の扉が、閉まっている」
「たまたまだよ、散らかってたからたまたま閉めてるだけでっ……あっ兄ちゃん!?」
兄ちゃんは無遠慮に、ズカズカと寝室の扉の前まで行く。俺は兄ちゃんの腕に縋り付いて『ちょっとちょっと!』と止めるが兄ちゃんは、一旦息を吸ってはいて、それからガチャっと寝室の扉を開けた。そこには背の高い鷲鼻の黒髪イケメン、勿論さっきまで俺を抱きに抱いていた名木が所在なさげに立っていて、少しだけ眉を上げてはしかし淡々と一礼する。
「……お前は、」
「隠れるような真似をして申し訳ありません。唯月くんの大学の同期で、名木といいます」
「……同期だと? お前も絵を描くのか」
「いえ、俺はピアノ専攻です」
「あっ、ちょっとちょっと兄ちゃん!?」
そんな名木を一瞥しただけで、兄ちゃんはいつのまにやら名木が整えたらしいベッドの方へ足を向けて、そのまま思いっきり、表向き整っている布団をがばっとめくって中を見た。そこまでは、やっぱり勿論スーパーエリートな名木でも整えきれなかったらしい。ぐちゃぐちゃに汚れていて、どう見たって性の名残があって。次の瞬間兄ちゃんは、ガッチリしたムキムキの名木の胸ぐらを思いっきり掴み上げていた。
「あっ」
思わず俺も声が出る。兄ちゃんは、いつかも記述した通りのブラコンなのだ。
「お前、唯月に手を出したのか」
「……申し訳ありません、でも俺は」
「言い訳はいい。今すぐ出ていけ」
「京介さん、あの、」
「気安く人の名前を呼ぶな、良いから早く出ていけ」
「……俺は唯月くんのことを、」
「煩い、出て行けと言っている!!」
珍しい、兄ちゃんの怒鳴り声であった。俺はその張りつめた空気に身体を強張らせていて、名木は平気そうにしているけれど、『失礼します』とその場で一礼して、俺の横を通り過ぎるときにポンと俺の肩を叩いては、
「また、大学で」
そう言ったきり、俺の部屋から出て行ってしまった。兄ちゃんは、俺の交友関係に厳しい。それは俺の高校時代の過去にも原因がある。俺は高校時代、同級生の玩具にされていたのだ。それは校内でも問題になって明るみに出て、両親は俺に興味がないから、その時学校に面談に来てくれたのも兄ちゃんであった。名木が出て行った部屋で、兄ちゃんは難しい顔をして俺を振り返っては、少し考えて言った。
「とにかく今は、夕食をとろう。唯月」
言った通り兄ちゃんは、冷蔵庫にあるもので簡単なチャーハンとスープを作って食卓に並べて、名木の名残を尻の中に残したままの俺を座らせては、それを俺と一緒に食べた。
「ご馳走様」
「ご馳走様です」
兄弟でごちそうさまをして、それからやっと兄ちゃんは俺の核心に迫ってくる。即ち背筋をピンと伸ばして、姿勢よく俺をまっすぐ睨むようにする。
「今度はあの男の玩具にされたのか」
「えっと、」
「高校時代のことで、懲りていないのか。俺以外の男を部屋に上げるなと、あれほど強く言った」
「その、兄ちゃん俺、玩具にされたわけじゃ……」
「だったらまさか、進んであの男に抱かれたとでも?」
「……」
責められている。兄ちゃんは立ち上がって、俺の隣に来ると俺も立ち上がらせて、俺のシャツを割り開いては俺の身体を確認する。そこにはたくさんの、名木に愛されてつけられたキスマークがあって。
「下も脱ぎなさい、唯月」
「はい」
命令されて、ホットパンツと下着も下ろす。兄ちゃんに後ろを向かされて、そのまま剥き出しの尻たぶを割り開かれる。割り開かれるとそこからは、どろっと名木の精液が零れ落ちてくる。兄ちゃんが溜息を吐いて、眼鏡をかちゃりと上げなおして、後ろからそっと俺の肩を叩いてきた。
「仕方がない。俺が綺麗に処理をする、良いな?」
「……はい、兄ちゃん」
ずっと背中を追いかけてきて、俺はそれに疲れてしまって、でも未だ兄ちゃんの存在は俺にとって大きい。大きすぎる存在なのだ。両親のいうことなんか聞かないけれど、兄ちゃんの言うことには逆らえない。かつて同級生に『無理やり』されたときも兄ちゃんは、今日のように俺の身体を『清める』と言って、俺のナカまできれいに、綺麗に綺麗に掃除をしたのであった。
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