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5.ビッチな俺の戸惑う気持ち①

 俺の兄ちゃんに俺の部屋から追い出されて自宅に帰った名木が、自宅の立派なグランドピアノの前に座って、後ろに手伝い達二名を控えさせている。ピアノの上にはこちらも有名なクラシック音楽の楽譜、リストの『愛の夢』。名木は俺のことを想い、目をつむってまた開いて、それからするっと美しい指先で愛の夢を弾き始めた。  名木の演奏に、手伝い達がうっとりと頬に手を当てる。穏やかな溜息を吐く者もいて、第三番を弾き終わると名木は、俺の前でショパンを弾いた時と同じように姿勢よく立ち上がり、コンサート終わりのように一礼しては、手伝い達に尋ねる。 「どうだった?」 「「素晴らしいです、坊ちゃま!!」」 「そうか」  間髪入れずの手伝い二人のいつも通りの感想に、名木は一つ眉を曲げる。しかし手伝い達に表情がうっとりしていることに気が付いて、そうして少しだけ微笑んだ。 「君たちも、忙しい合間にありがとう。もう行っていい」 「はい」「失礼いたします」  ピアノ室から手伝い達が出て行って、出て行った先で扉の向こう『坊ちゃま、何か良いことがあったのかしら』などとまだ名木の演奏を褒めているのが名木にも聞こえる。名木も考える。自分の演奏が、色めき始めている。少し浮かれている部分もあるが、確かに『心』が入り始めている。それはもちろん、名木が俺というビッチなメス男子に恋をして、実際に出会って触れ合って、セックスまでした結果の表れであるのだ。名木はピアノを振り返り、恋人にするように優しく鍵盤に触れては、うわ言のようにつぶやいた。 「君のこと、音楽のこと、少しは好きになれそうだ」  ここ最近ずっと、名木はピアノが、音楽のことが好きではなかった。それは自分の演奏に、技術があっても魅力がないことに気が付いてしまったからなのだ。だから両親の応援も、手伝い達の賞賛も、すべてが心にもないものだとそう思い込んでいた。それが俺と出会って、俺に恋をして、一日もたっていないというのにこの反応の良さ。 「唯月……君との恋が、俺にはやっぱり必要みたいだ」  ずっと夢見た俺との恋と、ピアノ演奏の変化に満足して、しかし名木は俺の兄ちゃんに怒鳴られたことを思い出す。あれから俺が兄ちゃんに、叱咤されたりしていないかと眉を上げる。俺たちは、まだ連絡先も交換していないから俺とメッセージを交わし合うこともできない名木にはただ、俺を心配することしかできなかった。 ***  俺のケツの中、名木の精液で一杯であったそこを浴室で綺麗にした、何度も何度も洗浄をした俺の京介兄ちゃんが、俺をベッドで休ませてから俺たちの実家に帰って、離れでイーゼルに向き合って睨めっこをしている。そこには古い知り合いからのご依頼の、兄ちゃん奇才が光る独創的な印象画。 「唯月、」  こちらも俺のいないところで俺の名前を呼んで、かと思うと隣にあったカッターで、兄ちゃんはその独創的で完成一歩手前だった絵に、ザッ、ザッ!! と切り傷を入れて滅茶苦茶に切り刻み始める。 「名木……名木、拓斗! あの名木家の長男坊が、どうして唯月に手を出したりするんだ!!」  声を荒げてイーゼルから切り刻んだ絵を引きずり千切ってぐしゃぐしゃにして、兄ちゃんは俺がまた知らない男に犯されたことに腹を立てている、らしい。兄ちゃんは、何度も言うがブラコンなのだ。それがどんな意味を持っているか、俺にはまだわからないことだけれど兎に角そうなのだ。兄ちゃんは俺のケツに挿入して何度も精液をかき出した、彼の骨ばった指を見て、それにちゅ、とキスをして、それからぎろっと虚空を睨む。 「唯月に手を出す奴は、唯月、俺がみんな取り払ってやるからな」  睨みながら口の端を上げて、完成間近だった今はボロボロの絵を地べたに投げ捨てては、兄ちゃんはクツクツと独りで笑った。 ***  名木の絶倫に抱かれまくった上、そのあと怒っている様子の兄ちゃんに尻の中を丁寧に洗浄された俺はぐったりで、兄ちゃんに言われるがままパジャマに着替えて眠りについて、目が覚めるともう次の日である。 (今……十時か。大学は午後からでいいかな)  どうせ絵画実習のある授業以外はまともに出ていないから、これ自体はいつも通りだ。けれど、昨日の王子の言葉を思い出す『先輩方は、合コン』と、王子は確かに言っていた。元々ヤリサーにいた女の子たちからも先輩方を奪って溶かしてメロメロにしていたつもりが、いつのまにやら俺の知らないところで彼らが、女の子熱を復活させていたなんて。聞き捨てならないから今日サークルに行ったら、先輩方を尋問しよう。それから滅茶苦茶にフェラしてあげよう。抱かれてあげよう。別に(先輩方との)そのことを休んでいたりさぼっていたりしていたわけじゃないけれど、彼らにはもう一度わからせる必要がある。彼らの相手は俺だけだ。女の子より俺の方が凄いって、思い知らせてやる。 (とは思うものの、)  昨日の名木とのセックスは、気持ちが良かった。俺はひどくされるのが好きなはずなのに、皆におもちゃのように扱われるのが好きなはずなのに、柄にもなく名木に『もっと、もっと優しくして』なんて甘えてしまった気がする。これじゃあ俺の、軸がブレブレだ。気持ちよかったけど、気持ちよかったけどでも俺の本質はビッチなメス男子であるはずなのだ。名木の抱かれるの、控えようかな……。でも名木を堕落させるっていう目的もあるし、俺はいったいどうしたら良いんだろう、と考える。 「ま、先輩方と乱交してから考えるか!」  独り言を言ってから俺はまた、午後まで眠りについたのであった。

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