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5.ビッチな俺の戸惑う気持ち③

 その『誰か』は五十分後に、真面目に午後の講義を受けて、それを終えてからやってきた。運が良ければ王子達が顔を出すと思っていたのも最初だけで、十分二十分とすぎていくうちに俺は元気をなくしていって、時折遠隔で激しくなるバイブの動きにビクッ、ビクッ、と身体を痙攣させては『うぁ、』と声を漏らすだけになっていた。 (暗い、暗いよ……何にも見えない、今何時? 何分経った? いつになったら誰か、先輩方でもいい、)  何回イったか、報告なんてできる状態じゃない。目隠ししている布は涙で濡れそぼっており、それで逆に張り付いてしまって、自然に落ちる様子もない。フックに吊り下げられた手が痺れてきている。先輩たち、エロ漫画やら動画の見過ぎだ。こんなの普通じゃない。思っていると、ガチャっとヤリサーのドアが開く音がした。ぴくっと俺は身体を反応させて、だらしなく俯いていた顔を、何も見えないながら音のしたほうに上げる。 「んっ、ふぅ、誰……? 王子? 先輩???」  やってきた人物は何も言わず(あとから思えば言葉を失っていたのだろう)、ズカズカと急いで俺の近くにやってきては、まずはフックにつり下がった手を解いてくれる。やっと自由になった手で、でも怖くてその人物にまだ縋ることはできなくて、フルフルと玩具だらけの身体を震わせているとぐいっと目隠しが取り払われた。そのに居たのは、 「あ……名木?」  そう、名木であった。大学随一のモテモテエリートで家柄もよく、俺に恋しているという、昨日優しく俺を抱いた名木であったのだ。その名木が、今にも泣きそうな辛そうな瞳で、秀麗に俺のことを見つめては、次には俺をがばっと抱きしめた。 「唯月っ!!」  やっと、名木の優しい声を聴いてやっと安心して、俺は力の入らない両腕で、それでも弱弱しくだけど名木を抱き返す。涙が、涙が溢れて止まらなかった。 「ふぇっ、名木っ、なぎぃ……! 来るの遅いよぉ、」 「まさか、君がこんな目にあっているなんて……王子くんたち、の仕業ではないよな? 例の先輩方か?」 「んっ、はぁっ……と、りあえず、名木。バイブとローター……オナホも取って、もっ、俺げんかい、」 「あっ!? ああ、すまない唯月、すぐに取ってやる」  じゅぽっとまず名木はバイブを抜いて、次にオナホールを俺から抜いて、最後に乳首のローターを剥がしてくれた。俺のケツ穴はぽっかり開いたままで、でも性器は力を失っていて、乳首はかわいそうなくらいぷっくり膨れ上がっている。それを見て、名木は再び俺を強く抱きしめて、それから俺に謝ってきた。 「本当に、遅くなったみたいだ。すまない、唯月。本当に」 「も……名木が謝ることじゃない、よ。こんなこと自体初めてだし、想定外っていうか」  力なくへらっと笑うと、名木は一度俺の身体を離して、それから優しくまた抱きしめてくる。労わるように背中をポンポンと叩かれて、俺はそれでやっと安心する。名木の厳しい声色。 「やっぱり唯月。ここは良くないところだ。本当は俺も加入して見張っていようと思ったけれど、君がこんなことをされるなら、」 「でも俺、玩具だから。皆の玩具の肉便器だからね、良く考えればこれくらい、されて当然かも、」 「……本当に、そう思っているならなぜ泣いている?」  言われた通り、俺の声は震えていて、大きな瞳からは涙が溢れて止まらない。名木に縋って抱きついて、『ふえ』と嗚咽を漏らしてはやっと、やっとのことで思いっきりに泣き出す。 「ふええっ、名木、なぎ! 怖かった、こわかったよぉ!! もっ、誰も来ないんじゃないか、って、おれ、」 「唯月。ああ、こわかったな、すまなかった」 「こんなのっ、こんなの高校時代と変わってない! 俺、皆に抱かれてあげてるんだって思いたかったのに! これじゃあ先輩方も、あいつらと一緒だ!!」 「高校時代? 唯月……、いや」 「俺はただの、やっぱり間抜けな落ちこぼれ息子だ! 俺、おれ、絵でも他でも、誰かの一番になんてなれない負け犬なんだ!!」 「唯月は、俺にはずっと一番だよ」 「そんなこと言うの、名木だけだよ……名木は優しいから、名木はだって、名木みたいなエリートに俺の気持ちっ、」  と、言ったところで部室が再び開く。今度部室に入ってきたのは俺をこんな目に合わせた先輩たちで、先輩たちは俺の拘束が解けて玩具が床に転がっていて、しかもエリートくんのイケメン名木と、俺が抱き合っていることに眉を曲げる。 「ゆーづきちゃん、って……お前、名木じゃね?」 「あーあ。なーに勝手に唯月の拘束解いちゃってんの」 「唯月ぃ、何回イったか数えたかぁ?」  そこまで言って先輩方はケラケラ笑う。笑ってから『で、』と切り替えて、悪い顔で名木に凄んで、先輩方の方に立ち上がった名木の胸ぐらをつかみ上げる。 「エリートくん。名木、お前唯月とうちの部室で何してんだ? 唯月とはどういったご関係で???」 「俺は、唯月の友人です。今日はここに、本当は入部届を出しに来たんですけれど、気が変わりました」 「はあ? 入部届? 気が変わった? 何の話だよ、」 「唯月はここに、いるべきじゃない。俺は唯月を、このテニスサークルから辞めさせます」 「ふざけんなよ、唯月は俺たちの玩具。所有物なの。大体、キレーな道を通ってきた、皆の人気者のエリートくんとは関係ないだろ?」 「俺は、唯月のことが好きだ。ずっと前から、あなたたちと唯月が出会う前からです。俺は唯月を守りたい。唯月をこんな目に合わせるあなたたちからは、唯月を逃がさなければいけない」 「好き? 好きってこのビッチのことが? 大体こいつ男だぜ、本気で言ってんのかよお前ホモ?」 「唯月はビッチでも玩具でもない。唯月は繊細な、とても良い絵描きです」  暫し静寂、のちの笑い声。ケラケラケラ、と先輩方は笑い合って背中をたたき合って、『ひは』と引き笑いをしてからやっと、ぎろっと名木を睨む。そもそもここは、芸大の落ちこぼれの集まりでもあるのだ。生まれ持ってのエリートの名木に、敵意を持って可笑しくない。ましてや仲間に入れようだなんて、俺が甘かった。 「そっか。お前唯月をこっから抜けさせたいの?」 「はい」 「じゃーお前、お前が唯月の代わりに落とし前付けるか」 「何をすれば?」 「お前、名木。エリートのくんの指、俺たちに潰させろよ」 「は?」 「みなさぁん、ちょーどここに、たまたま部室改装の時に使ったペンチがありまーす。これでこれから、名木くんの指を一本一本潰そうぜ?」 「何を言って……」 「あ? なんだ文句あんのか? 嫌なら唯月はこのまま俺たちの玩具、肉便器ちゃんのままだぜ?」  ニマニマと嫌な感じの笑みを浮かべた先輩その一に、正直言って俺から見ても他の先輩は引いている。引いているけど先輩方の中でもその一はリーダー格で絶対だから、逆らう気はないらしい。でもそんなふざけた提案に、ピアノ弾きの名木が応じるはず、 「……わかりました」 「えっ」

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