用語解説 フロック・コート

フロック・コート(Frock Coat)は、19世紀ヨーロッパの服飾史を語る上で外すことのできないアイテムです。

かんたんに言いますと、紳士用の上着、ジャケットです。
広まったのは19世紀中ごろ。20世紀初頭まで昼の男性用礼装として定着していました。

前合わせがダブル(ダブルブレスト)、裾のカットはまっすぐです。色は黒が一般的。
同じく昼の礼装であったモーニング・コートはシングルブレストで裾のカットがラウンド型です。

フロック・コート、ウェストコート、パンツ(ズボン)、シャツ、タイで一揃いになります。

 

 

モーニング・コート。裾のカットがラウンドですね。

 

 

フロック・コート。裾がまっすぐ。

 


モーニング・コートは午前中の礼装、フロック・コートは日中通しての礼装と思っていただければだいたい合っています。
どちらも上着の丈が膝近くまであるため、高身長でなければ似合いません。
脚の長さも必要ではないでしょうか。

 


礼装(正装)? と首を傾げる方もいらっしゃると思います。
19世紀当時の英国では、在宅中でも来客があれば礼装で出迎えます。
外出時はもちろん礼装。フロック・コートかモーニング・コート、トップハット、ステッキと手袋が必須です。
ロンドンの街中をふだん着(ラウンジスーツなど)で出歩くのははなはだ下品な行為と見なされました。
家族と食事をする際も正装します。一日に何度も着替えます。
タイを結ぶのが下手だったり、ウェストコートのボタンが上手く留められなかったりするご主人様もいたようで、そういう方はヴァレットかフットマンの手助けが必要になります。
女性はもっと大変です。何しろクリノリンタイプのドレスは一人じゃ着られない。
やはりメイドや侍女の手助けが必要でした。

 


拙作のジュリアンは、身支度だけは自分でできるようです。
ストリングタイを結ぶのは意外にコツが要りそうですけどね。

 

 

英ドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』より。

ジェレミー・ブレット(左)は“史上最高のホームズ”との高い評価を受けていました。

同作品の撮影中から精神の病を患っており、晩年まで苦しんだようです。

1995年、61歳で死去。英国のエレガンスとエキセントリックを体現し続けた稀有な俳優ではないでしょうか。

フロック・コートをこれほど美麗に、端正に着こなす殿方を他に知りません。