映画 感想 さらば我が愛~覇王別姫
名作、覇王別姫をみてみました
ネタバレ、感想です。
1993年公開 (香港)
監督 チェン・カイコー
主演はとても美しい レスリー・チャン
幼い少女のような格好の少年が、京劇の一座につれて来られます。
母親は遊郭の女郎。
大きくなった男の子をこれ以上遊郭には置いておけないからです。
少女のような姿は、少しでも長く手もとにおこうとした母の思いだったのでしょうか。
しかし、少年の片手には指が6本あり、それを理由に一座からは断られます。
何がなんでもここに置いておきたい母親は、その場で指を切り落とし、少年を一座に置いていきます。
望む望むまいと関係なく、少年は京劇役者の道に。
母親に置いていかれた初めての夜。
少年は母親の上着を燃やします。
泣きも責めもせずに。
優しく声をかけてくれたのは、小石頭という、すこし歳上の少年でした。
小豆子と名付けられた少年は辛い扱きに耐えます。
もう、ただの虐待にしか見えないしごき、その中で何かと庇ってくれたのは、小石頭でした。
小豆子を小石頭はそれこそ、身体を張って護るのです。
小豆子が小石頭を慕うのは仕方ないように思います。
これは好きになっちゃう。
でも、ある日、小豆子はいつも折檻を受けている少年ととうとう逃げ出します。
でも、祭の中で、素晴らしい京劇の舞台を目にすることになり、京劇の素晴らしさに目覚め、やはり一座に戻ることにします。
しかし、もどってきた二人が見たのは逃げ出した二人のために、苛烈な折檻を受ける仲間達の姿。
大好きな小石頭が酷く殴られている姿に小豆子はとりすがります。
自ら罰を受ける小豆子。
止まらない折檻が止んだのは、皆が受ける折檻の凄まじさに耐えられなくなった、逃げたもう1人の少年が自殺したからでした。
それでも、小豆子は役者になると自ら決めたのです。
小豆子と小石頭は、過酷な修行の中、お互いを支えあいながら、二人は役者となっていきます。
小豆子には小石頭だけが支えでした。
二人には。
他には誰もいなかった。
美しい女形となった小豆子は、蝶衣、小石頭は、小櫻と名乗ります。
美しい蝶衣は、無理やりパトロンの老人に身体を自由にされてしまいます。
何をされた、と心配する小櫻になにも答えない蝶衣。
帰り道、赤ん坊を拾います。
傷つけられた自分の代わりに守るかのように。
蝶衣は、養成所に赤ん坊を預けるのでした。
二人は大人になり、人気役者になります。
特に二人が演じる「覇王別姫」は大人気。
「ずっと一緒にいて?一生」
小櫻を慕い続ける蝶衣は愛を打ちあけますが、小櫻は蝶衣を斥けます。
「恋人なのは舞台の上だけだ」
と。
拗ねた蝶衣の機嫌をとったり、二人でいる様子は恋人同士のようなのに。
でも、遊郭に小櫻は入り浸り、オマケに女郎の菊仙と結婚してしまいます。
傷付く、蝶衣。
蝶衣も、パトロンである高名な先生と関係を結び、小櫻を拒絶していきます。
それでも、小櫻が日本軍に捕まれば、彼のために司令達の前で歌って踊り、釈放を願います。
結果小櫻から蔑まれることになっても。
蝶衣、小櫻、菊仙。
三人の三角関係。
蝶衣にはどうなろうと、小櫻だけです。
小櫻も、蝶衣から離れられない。
菊仙は妻でありながら、二人の絆をどうすることもできない。
本当はね、菊仙が1番可哀想なんですよ。
なんにもわるいことしてないからね。
小櫻が言ったんです、自分のところまでとんでこいって。
それを信じただけ。
蝶衣にいじめられる謂れもないの。
でも、観てたら責めてしまう。
お前のせいで蝶衣が、かなしいやないかって。
間違ってる、そう思ってしまう。
蝶衣と小櫻の間に入るなって。
蝶衣と小櫻は間違いなく、寄り添うための二人なのにって。
でも、菊仙はどこかで蝶衣を憎みながらも同情してます。
それは多分、酷い男を愛した者への共感なんでしょうね。
小櫻は。
飛び降りる菊仙を受け止めるし、阿片中毒になった蝶衣を抱きしめるんです。
優しいから酷いんです。
三人は愛憎の中でそれでも、離れられない。
戦争が終わり、京劇自体も堕落したものとされる中、かつて自分が拾った赤ん坊、そして、養子にした弟子に陥れられ、蝶衣は役を奪われます。
この時、今まではどんなことがあっても役者である蝶衣を守ってくれた、彼の「虞美人」を守ってくれた小櫻は、蝶衣をうらぎって弟子と舞台に立ちます。
蝶衣は深く傷つきます。
中国ではさらに思想統制が厳しくなってきて、何かあれば弾圧の対象になっていきます。
群衆の前に引き出され、責められ、処刑されたりするのです。
とうとう、蝶衣も小櫻も、群衆の前に堕落した京劇役者として引き出され、責め立てられた時、小櫻は蝶衣を、告発します。
日本軍の為に歌い、後援の先生とみだらな関係を、結んだ堕落した人間だと。
蝶衣は壊れます。
誰のために歌った?
小櫻を助けるためです。
何故、先生と寝た?
小櫻が自分を置いて結婚したからです。
何故。
何故。
何故。
ここで蝶衣は。
それでも、蝶衣は。
小櫻を責められなかったのです。
蝶衣が責めたのは、今では唯一蝶衣に同情している小櫻の妻、菊仙でした。
あの女と結婚したから。
それが堕落の始まりだと。
群衆の前で蝶衣は菊仙の過去、女郎だったことを暴きます。
群衆に責め立てられて、小櫻は菊仙と離婚するとまで言ってしまいます。
折れることない、強かった小櫻はどこにももういませんでした。
傷付いたのは菊仙?
それとも?
菊仙は自殺します。
それから 長い時間が過ぎ、永く離れ離れだった二人が共演する日がきます。
変わらぬうつくしさの蝶衣、衰えをみせる小櫻。
二人はリハーサルなのか二人だけで、舞台を演じています。
むかしのようにセリフを蝶衣がまちがえて。
二人は微笑みます。
でも、セリフの最後に蝶衣はみずから虞美人のように本当に命をたってしまいます。
「豆子」
小櫻、いや、小石頭がつぶやき、物語は終ます。
ずっとね、間違ってると思うんですよ。
小櫻と蝶衣は二人でいるべきなのにって。
いえ、小石頭と小豆子ですね。
小石頭は小豆子が好きだったんですよ。
ずっとずっと。
美少女のような彼が現われた瞬間から。
守って。
庇って。
でも、それを認められなかったんでしょうね。
女形で、時に身体を自由にされなければならなかった小豆子は、その意味では、認めやすかった。
でも、小石頭は。
そんな自分を認められなかったんでしょうね。
むちゃくちゃ小豆子が、先生に近づかないように最初は威嚇してたし。
だから遊郭に入り浸ったんじゃないの、とか。
小豆子と菊仙、気が強くて、健気で、身体を望まなくても自由にされるとことか、似てるしね。
小石頭は狡いから。
菊仙を小豆子の代わりにしようとしたんじゃない。
自分は飛べないから、飛べる菊仙をえらんだんじゃない。
ずるい。
ずるい。
でも、菊仙も小豆子も、結局は深く愛した小石頭を失うわけで。
飛んだ自分を受け止めてくれた男も、身体を貼って守ってくれた少年も、いなくなってしまったわけで。
それでも、小豆子はまだ舞台の上には理想の恋人がいた。
だからこそ、最後に舞台を現実にしたかったのかなぁと。
小豆子はちゃんと舞台の上に本物の恋人を見つけ出して。
その恋人と去っていったんだと思う。
置いていかれたのは。
小石頭。
恋を全うしたのは、美しい役者でした。
そういう話だと思う。