【過負荷】破壊と再構築を繰り返したその先は?
冒頭は、記憶の失くした男が目覚めるところから始まるのだが、非常に掴みが上手くて、ぐいぐいと物語に引き込まれてしまった。
ノンケであるはずの男は、記憶をロストしている間に、どうやらバンド仲間の「彼」と爛れた関係に発展してしまったらしいのだ。
そして、驚くことに、美男子の彼には、蠱惑的な妻までもいて、彼等の関係を容認しているようなのだ。あまりにもインモラルな状況に、常識的である私たち(読者)は困惑してしまうかもしれない。
けれど、バンド仲間の彼にも一言では言い表せない複雑な事情があるのだと、後に知ることとなる。
必然的で依存的。痛々しくて官能的。
皮肉なことに、この苦痛こそが彼を輝かせているのである。
この物語では、登場人物たちの絶妙なバランスで成り立つギリギリの日常が描かれる。ピースが1つでも欠けてしまえば、この日常は呆気なく崩れ去ってしまうだろう。
記憶を失う者、心を磨り減らす者。
何度も繰り返される二人の関係の破壊と再構築。
「愛」と呼ぶには、あまりにも破滅的で閉塞的。しかし、その危うく、息苦しい関係だからこそ、私には尊く思え、酷く惹き付けられてしまったのだ。