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ーーーー昔、まだ俺が若かった頃、付き合っていた人がいた。 正式にお付き合いをしましょうなんて約束はしなかったけど、一緒に過ごす時間が増えるごとに、お互いにお互いが必要で、目を見れば言わなくても分かるくらいに、彼の考える事は手に取るようにわかった。反対に、彼は俺の全てを理解してくれていた。俺は彼のことを、すごくすごく、好きだった。 一緒に生活をしていて、彼は料理が得意では無かったけど、それでも俺のためにご飯を作ってくれたり、彼が風邪を引いた日はおかゆを作って食べさせて、全然味がしないって怒られたり。 でも俺がこの仕事をするようになって、その関係は崩れた。 彼は、俺が人を殺すことを軽蔑した。ーーーー 葵さんの両手が緩く俺の首を掴む。 俺は抱き着いた姿勢のまま静かに息をした。 顔が見えない、けど、今葵さんは顔を見られたくないんじゃないかと思って、ぎゅっと抱き着く力を強める。 続き、話してください。 そう促すように。 ーーー彼の言う事は当然だと思った。 でも俺は上に気に入られて、異例の速さで出世した。すでにこの世界を抜けられる状態ではなかった、というのは言い訳で、その地位を、その先の待遇を、手放すのが惜しかった。 そうして彼と会う時間はどんどん減って、俺は何も考えず作業のように人を傷付け、陥れ、命を奪った。 面白いくらい評価されることに優越感に浸って、ここでトップになれば、彼も理解してくれるのではなんて思っていた。 そんなある日、彼は自殺した。 なんの前触れもなく、前日には久しぶりに食事に行ったんだ。俺は仕事の話をしなかったし、彼も何も聞いてこなかった。 またこんな風に笑って会話ができたことが嬉しかった。なのに、 あれは彼なりの仕返しだったんだと思う。 お前のせいで、この幸せは殺されたんだ。って。 彼が消えて、俺にはもう奪うことしか残っていなかった。そうして、この地位を手に入れた。ーーーー 「情けないだろ。あいつはきっと笑ってる。結局俺はどんだけ偉くなっても、幸せなんてこれっぽっちも手に入らなかった」 そう言って小さく笑った葵さんは、俺の首から手を離しておでこにキスをした。
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