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はじめて
夏休み直前は学校が午前中で終わる。
幸彦と俺はどきどきしながら駅前のドラッグストアにいた。
問題のブツを見つけて、どちらがレジに行くかでもめた。が、結局俺が折れた。幸彦を待たせた鈍感な俺が悪いのだ。
薬剤師のおばさんに見とがめられるのではないかと思ったが、全くのスルー。簡単に買うことができた。
「初めてだから一つでいいよな」
紙袋を幸彦に渡すと、幸彦は大事そうにバッグにしまった。
買ったのは浣腸用の薬剤。男同士のセックスには必要だと幸彦が言った。穴の目的外使用で尿道炎になる場合もあるのだそうだ。
「少しずつ買いためておけばいいよね」
場合によっては一度に二つ使うつもりか。でも、仕方ない。この手の知識はすべて下調べをしてきた幸彦からもらっている。
駅から家の方へ向かうバスに乗る。幸彦と俺の家はバス停二つ分しか離れていない。帰りは歩いても帰れる、たぶん。
幸彦の家に着いた。両親は共働きだし、お姉さんのすみれさんは石川県の大学に通っている。
締め切られていた部屋は暑いが、俺たちは真っ直ぐ二階の幸彦の部屋へ向かう。幸彦がエアコンをつけてくれた。生き返る。
「朔夜、シャワー浴びなくていいよね?」
「いいのか? 汗臭いぞ」
自分をクンクンやっていたら、幸彦に抱きつかれ、そのまま一気にベッドまで寄り切られた。
「あ、ぶないなあ」
文句を言った口は幸彦の唇に塞がれた。舌が乱暴に押し入ってくる。負けじとそれに絡みついて応える。
もう何度もキスは経験した。始めは羽根が触れたようなかすめるキス。それから唇を何度も押しつけ合うキス。そして舌を使った性愛のキス。
これだけでじんじん感じる。体の中に熱が熾って、それが腰から前に注がれ滾 ってくる。幸彦も同じようで、わざと下腹をこすりつけてくる。
下着が汚れてもいいように、幸彦が俺の分を買ってくれてあるそうだ。でも、さすがに制服のスラックスはまずい。
幸彦の背を手のひらで叩いて、ギブアップをした。
「どうした、朔夜。僕はまだキスし足りないよ」
「制服脱ぎたい」
「ああ、そうだね」
やっと解放されて、俺はワイシャツと中に来ていた白い薄手のTシャツを脱ぎ落とした。
「ひゃっ」
背後にいた幸彦が俺の乳首を爪で掻いたら変な声が出た。
「やめろよ!」
手で胸を隠す。
幸彦は笑いながら、制服を脱ぎだした。
スラックスも靴下も脱いで、男子高校生が二人ブリーフ一枚。しかも二人ともブリーフの前を濡らしている。
「駄目だっ、我慢できない」
幸彦が襲いかかってきた。またベッドへ逆戻りだ。
さっき爪で引っかかれたところを今度は口と舌でなぶられる。
まるでそこが腰に直に繋がってしまったかのように固くなって、液体が更にあふれるのを感じる。
「あっ、あ……、ゆき……」
幼児になったように言葉が出ない。そんな俺の下腹に幸彦が激しく自分の猛った下腹をこすりつける。胸も片方は噛まれ、片方はきつく摘ままれた。
もうどこで感じているのかわからない。体がどろどろになったようだ。
自分の指を唇に当て、「ゆき、ゆき……」と恋しい人の名を呼ぶことしかできない。
幸彦の体が離れた。そのことに「あ」と不満げな声が出て恥ずかしくなる。下着を脱ぎ捨てた幸彦は、俺に尻を上げさせてブリーフを剥いだ。
それからまたじっくりとキスをした。
「やる?」
小さな声で聞いた。
「浣腸、いやじゃない?」
「幸彦が病気になる方がいやだ」
今回は俺が幸彦を受ける。これからいつもそうするとは限らないけれど、今日はそうしようと俺が決めた。
「失敗しないように僕が入れてあげる」
「それ、恥ずかしがっているところを見たいんじゃないよな?」
幸彦はふふふっと笑うだけだった。
バスタオルを敷いた床に横向きに寝かされ、指でそっと開かれ、細い異物が入ってきた。そこから少し冷たい液が出てきたのがわかる。心臓がどきどきしてきた。
「全部入ったよ。ティッシュで押さえるから」
だんだん腸がごろごろし出す。
「何分我慢するんだ?」
「最低五分はがんばって。タイマー仕掛けたから」
二階のトイレは幸彦の部屋の前だ。幸彦に連れられて移動する。
幸彦の部屋でスマートフォンが鳴りだして、俺は心からほっとした。
念のためと称して結局二人でシャワーを浴びた。それからお湯をためながら深めの浴槽に二人で入る。そこで初めて幸彦に指を入れられた。いつの間にローションを持ってきていたのか、ぬるぬるとした指は最初は俺の体が抵抗したものの、入れられたいと思う気持ちと「口開けてみて」というアドバイスで何とか入った。
それでも異物感が半端じゃない。幸彦を受け入れられるか不安になった。
「そんな顔しないで」
幸彦がキスをくれた。
「探すから」
「何を?」
俺の声は泣きそうだ。
「朔夜のいいとこ」
幸彦はローションを足しながらゆっくりと奥まで入ってきた。うっかりするときつく締め付けてしまうのを、必死に「力を抜け、口を開けろ」と頭の中で唱える。
その時、体がびくんと跳ねた。
「ここ?」
幸彦が丁寧に俺の中を探る。
そこに来ると、ずくんと刺激が前に駆け上った。
「わかったよ、朔夜」
「あ……ああっ、や……」
「うそつき」
かちかちになった前を握られた。
「浴槽の縁に伏していいから、僕に任せて」
改めて前にも後ろにもローションを施されて、先端の割れ目から固くしこった股間から後ろの穴までを幸彦の指が巧みにさまよい、こすり上げ中から押し上げる。
膝ががくがくし始めるほどの快感に気が遠くなりそうだ。
「指ふやすよ」
ああ、また圧迫感が増した。でも初めての時ほど抵抗しない。その二本の指が俺を中からもみしだいて自分が自分ではない生き物のような気がする。
「ゆき、おねがい、もう入れて……おれ、もたない、いっちゃう……」
顔が火照って腹の中もむずむずして、欲望のかたまりがしこっている。
「いっちゃっていいよ」
「やだ、ゆきと一緒じゃなきゃ。おれが、いや」
「わかった」
幸彦の太さは、指とは別物だった。それでもローションが俺を助けてくれた。そして幸彦もゆっくりゆっくり出し入れをしてくれて、少しずつ体内に飲み込ませてくれた。
「ここだよね」
すっかり暴かれた俺の快感のスポットを幸彦の先端がじっくりと刺激してくる。すると無理に広げられて苦しかったはずなのに幸彦のそれを感じようとするかのように体が締まる気がした。
「いいよ、朔夜。すごくきつくて、気持ちいい」
幸彦の腰の動きに俺も合わせるように動いてしまう。
「朔夜はこっちも」
前を捕まえられて。柔らかく激しく波のようにせめたてられた。
「ゆき、すきだ」
「僕もだよ、さくや。いくよ」
「うん」
俺の前を握る幸彦の手に俺は手を添えて、交代した。
幸彦が腰を振ると奥まで入ってくるのがわかる。少し抜かれていいところを押しつぶすように責められて、俺は震えた。
病気のように震える手で自分を高めながら、背後の幸彦の刻むリズムを感じる。それがだんだん切迫してきて余裕がないとわかると、俺自身も自分を責め立てた。
「いくっ、さくや!」
「ゆきッ……」
今までに感じたことのない絶頂感に俺は意識を飛ばした。
実のところ意識がなかったのはほんの一瞬だったようだ。
風呂場でセックスしたのは正解で、お互いの体を洗いっこしたり、湯を張った湯船で寄り添って体を休めた。
「こんな日が本当に来るなんて……」
幸彦がしみじみと言った。
「待たせて――」
キスで言葉を遮られた。
「もう謝るのはなし」
「うん」
「気持ちよかった?」
「よかった」
素直に頷く。幸彦がのぞき込んできた。
「次はどっちがいい?」
俺は笑った。
「じゃんけん」
「受ける方、そんなによかったんだ」
「幸彦がうまかったのかもしれないけど」
幸彦が笑った。
「あれ、母のあの本が結構役に立ってるんだよ」
「え?」
びっくりして起き上がった。にこにこしている。
「あのエロ本を読んで、ネットで調べて、今日に活かした」
「そうなんだ」
「今や、すみれちゃんもはまってるらしい」
「すみれさんも?」
「どうも親子で同士になっているようだよ」
「こわー」
「でしょ?」
顔を見合わせて笑い合った。
俺は幸彦と恋人同士になった。学校バレをしているから、親バレもしてしまうかもしれない。
それはそれで仕方ない。
ただ、クリームパンの件だけが確認できていないのが、今の俺のわだかまりである。
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