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二番目(後)

 幸彦はバスタオルで俺を拭いてくれたり、下着を用意してくれたりとかいがいしく世話をしてくれた。 「嫌がってたからさ、絶対無理だと思っていたんだよ。僕が見本見せたらやってくれるかなとは思ったんだけど。まさか、朔夜から進んでフェラしてくれて、しかも飲んでくれるなんて、うれしくてたまらないよ」  幸彦はにこにこである。 「そんなに喜んでくれるなら、飲んだかいがあったよ」  俺はいくぶんぐったりしながら、ペットボトルのブラックコーヒーを飲んだ。  もう口の中にあの苦みはない。それでもしばらくはあの味を忘れられそうにない。 「ゆきのだから耐えられたけど、他の奴だったら絶対無理」  幸彦が「他の奴に目を向けさせたりしないよ」と自信たっぷりに言った。  俺はテーブルに両肘をついて、手で両頬を包んだ。 「どうした? いやだった?」  幸彦が心配そうに顔をのぞき込んでくる。 「いや。そうじゃなくて、やっちゃったなーってしみじみ思ってたとこ」 「一線越えちゃったって?」  俺は笑った。 「何本目の一線だよ。この一ヶ月で越えっぱなしだろ、俺たち」 「それもそうだね」  幸彦が横を向いて、荷物をがさごそしている。 「じゃあ、もう一線越えようよ」  俺の目の前に取り出されたのは、コンビニで買ったと覚しき五個入りミニクリームパン。  俺は乾いた笑いをこぼした。 「用意いいなー」  幸彦は笑って袋を開け、一つ取り出した。  いつもみたいに行儀よく一口サイズに割ってくれるのかと思ったら、大きな口を開けると半分くらいまで口にくわえた。そして俺を手招きする。  俺は微笑った。  そして覚悟を決めてクリームパンにかじりついた。  甘い。こんなに甘かったんだ。  唇を触れあわせながら二人でクリームパンを食べる。  口はもごもごで行儀が悪いし、少しテーブルにかけらもこぼれて、まるで幸彦らしくないけれど、気にしてくれていたんだなと思うと心が温かくなった。  食べ終えると、自然と唇も離れた。 「ありがと、ゆき」 「クリームパン、おいしいよね?」 「うん。幸彦のキスほどじゃないけど、甘くてやっぱり好きだ」  幸彦が目を丸くして、その後頬がぽっと赤く染まった。  二個目を半分こして食べる。幸彦はいつもの「一口ちぎり食べ」だ。 「本当は僕、そんなにクリームパン好きじゃなかったんだ」  俺は驚いた。よく一緒にパンを食べていたから、気にしていなかった。 「そうだったっけ?」 「朔夜、小さい頃からクリームパンおいしい、大好きって言ってて、おもしろくなかった。今になってわかるけど、僕はクリームパンに嫉妬していたんだね」  俺は手を伸ばして幸彦の頭を撫でた。 「幸彦が一番だよ」 「うん」  幸彦が身を乗り出した。目が輝いている。 「今度ネットで調べて、パン屋さんのおいしいクリームパン買いに行かない?」 「いいね」  俺もコンビニのではない評判のクリームパンが食べてみたい。  幸彦がペットボトルを見た。 「コーヒーちょうだい」 「もうぬるいかもよ」 「いいよ」  ペットボトルを渡した。ごくごくと白い喉をさらして幸彦がコーヒーを飲む。そして、ペットボトルにふたをするとにまっと笑った。 「朔夜と間接キス-」 「小学生かよ!」 「こんなことでもうれしければいいんですー。わかってないなぁ」  幸彦が立ち上がって冷蔵庫の方へ行った。コーヒーをしまってくれるつもりらしい。気が利く。  ああ、俺は本当に幸彦にはかなわない。言葉でも押されるし、セックスもリードされっぱなしだし。  でも、俺たちは対等に恋をしている。どっちが入れるかでは真剣にじゃんけんをする。自分が気持ちよかった分、相手にもそれを返したい。それが俺たちの関係なのだ。  さて、である。  俺は悩んでいる。  幸彦は俺に一番の「幸彦」と二番目の「クリームパン」をくれた。俺は幸彦に、幸彦の一番好きな「俺」をプレゼントしてしまった。では、俺が幸彦に贈りたい二番目は何だ?  今まで幸彦が何が好きとかじっくり考えたことがなかった。基本、俺はうっかりものらしい。  何としても幸彦の喜ぶ二番目を見つけること――  それが今後の課題なのである。

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