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(延長戦)親バレのち嵐(2)

「おかえり」 「ただいま」  両親の声からは異変は感じられない。二人とも自分の部屋へ行った。着替えらしい。俺はリビングで受験勉強のふり。  すると二人が相次いでキッチンに入り冷蔵庫を開けて、水やお茶で喉を潤したようだ。と思ったら、リビングに出てきた。  母さんが座布団の上の俺の脚を指さした。 「ちょっと朔夜、正座しなさい」  素直に正座をする。  二人が俺の前に座布団を移動させて座った。 「泉さんちの幸彦くんに、昼休み、みんなの前で抱きついて、好きだって言ったのは本当なの」  どストレートで母さんがきた。面倒なことが嫌いな人なのだ。 「はい、言いました」 「幸彦くんもあなたのことが好きだと言っているのも本当なの?」 「事実です。俺たちは付き合ってます」 「そうか」  父さんが言った。 「今時はそういう性質を隠さなくなっているから、そういう恋愛がないとは言わない。でも、それは本当に恋愛か?」  父さんの言葉の意味がわからなかった。また真っ直ぐなボールを投げてきたのは母さんだ。 「セックスに興味のある年頃のあなたたちが、女の子との一からの恋愛を面倒くさがって、幼なじみで美少年の相棒で妥協することにしたのではないかと訊ねているのよ」  カッとなった。 「妥協じゃねぇ。俺はゆきのことが好きなんだよ。大切にしたいし、喜ばせたいし、悲しいことがあったら一緒に分け合いたいんだ。それが恋愛じゃないんなら、俺は恋愛なんかできねぇ」  母さんが父さんを見た。 「ほらね?」 「そうか。そうなんだ」  ダメージは母さんより父さんが受けている。まあ、幼い頃からの俺と幸彦のようすを事細かに見てきたのは母さんだからな。 「それにしても、何でよりによって公衆の面前で告白したのよ。いーえ、わかるわ。やけっぱち起こしたのね。後先考えずに行動するところが私にそっくり」  ああ、やっぱりそうなんだ。 「そうだよな、君も部全体の宴会でまだみんながしらふのうちに、宴会場のマイク奪って告白したもんな」  父さんが片手で目を覆っている。美青年新入社員だった父さんは狙っている女性社員が多い中、いち早く母さんが手をつけて勝ち取ったと聞いている。 「欲しいものは先手必勝よ」  そう高らかに言った母さんが俺の方を向いた。 「はっきり言って、私たち同性愛の人のことはわからないわ。あなただって今はただ幸彦くんが好きっていうだけで、その大変さとかはわかってないでしょう。高い壁にぶち当たった時どうするかを考えなさい。同じ同性愛者に相談するか、法律家に相談するか、この頼りない親に相談するか、その他の誰かに相談するかはわからないけれど、もしその時無様に逃げるくらいなら、今のうちにただのお友達に戻りなさい」 「戻る気はない」 「壁にぶち当たって大破しても?」 「壁は壊せって教育してきた人の言葉じゃないね」 「よし、わかった」  母さんが言った。 「あちらの親御さんが反対して駆け落ちする気なら、うちの実家に行きなさい」  祖母ちゃんか。この母さんを育てた女傑だからな。  て、いうか、なぜ駆け落ち前提?  察したかのように母さんが言った。 「あちらは何だか深刻そうだったのよ。反対しているのかもしれないわ。いきなり壁よ。何とかしてみなさい」 「わかった、幸彦をさらってくる」  立ち上がった俺に父さんが縋りついてきた。 「ちょーっと待った。二人とも走り過ぎ、走り過ぎ。まだあちらはご夫婦での相談も終わってないだろうから、せめて一晩は待ちなさい」 「放せ父さん、幸彦は俺の恋人だ」 「朔夜ー、落ち着けー」  ピンポーンとエントランスからの呼び出し音が鳴った。  母さんが応対する。 「どうぞとうぞ、上がってきてちょうだい」  こんな時に人を上げるなんて、いったい誰がきたんだ。  母さんは澄まして言った。 「幸彦くんがきたわ」

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