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(延長戦)親バレのち嵐(3)

「お邪魔しまーす」  元気に幸彦がやってきた。どうも一泊ぐらいはできる荷物を持ってきたらしい。 「姉が馬鹿みたいにうるさくて避難してきました。面談に行った母にも連絡してあります」  幸彦はにこにこで、父さんは圧倒されている。美人系美少年には慣れていないらしい。 「まあ、すみれちゃんがどうしたの?」 「ずっと良い子を通してきた僕が、親の呼びだしなんか受けておもしろくて仕方ないんでしょうね。あちらは何度も呼ばれましたから」  さりげなくすみれさんをこき下ろしている。 「夏休みだから気にしないで泊まってちょうだい。泉さんには私からも連絡しておくわ」 「ありがとうございます」 「ただし」  母さんがじろりと俺たちを見た。 「清い関係でいてちょうだい。泉さんご夫妻がどう判断されるかわからないですからね」  すみません。さっきこのリビングでテレフォンセックスした二人組は俺たちです。  父さんはもうとうの昔に自分の部屋へ引きこもりだ。いろいろ限界だったのだろう。  僕たちはリビングのテーブルを挟んで勉強を始める。 「朔夜のお母さん、さばけてるねぇ」 「面倒なことがあるとぶち破ってきた人だから。ついていくの大変なときもあるんだぜ」 「だろうね」 「幸彦のご両親が反対したら祖母ちゃんちに駆け落ちしろって言われたよ」  幸彦の目がきらきらとした。 「すごーい。しようよ、駆け落ち」 「まだだめ。うちの父さんの胃に穴が開くから、最後の手段」  幸彦がとんとんとノートをシャーペンで叩いた。 「うちの親も朔夜なら表だっては反対しないよ」 「そうなの?」  幸彦は頷いた。 「うちの親が頭を痛めているのは、たぶんすみれちゃんだよ」  あーと俺は呻いた。 「すみれちゃんが受験生の僕たちを放っておかないかもしれない、幸彦に迷惑かけるかもしれないって悩んでるんだよ。その意味では、既に叱られた」 「そうなんだ」 「うん、飢えた野生動物に気軽に餌をやるなって」 「すごいたとえ」  自らの娘を野生動物とは、うちの親とは違う意味ですごい。 「朔夜の家に避難させてもらえるならそれが一番なんだ。すみれちゃんがまわりをちょろちょろすると本当に勉強にならないから」  俺たちは同じ大学の同じ学部、同じ情報学科を目指している。苦手を補い合う上でも、一緒に勉強するのは助かるのだ。 「とりあえず今夜は泊まりでOKなんだから、明日二人でうちの親と幸彦んちのご両親に頼もうぜ」 「うん、僕も必死で訴えるよ。例のヌードの話を出してもいい」  幸彦は真顔だった。俺も真顔を作った。 「家に来るとコンビニ飯が増えるけどいいんだな?」  母さんは料理嫌いで、苦手なのだ。まだ父さんの方が料理らしいものを作る。 「そんなの平気。何なら、僕が作るよ」  そうだった。幸彦の家に行くと、幸彦の気が向けばうまいものを作ってごちそうしてもらえるんだった。 「朔夜と一緒にスーパー行くとか気分転換に最高」  楽しいことばかりを思いつく。  が、好事魔多しと言うべきか。  その夜遅く、もう寝ようとした頃に泉家ご両親がやってきて、幸彦を家に連れて帰ると言い出した。  幸彦は相当に抵抗したが、「ご近所にご迷惑だから攻撃」に目に光るものを浮かべた。  そこで、俺はキレた。

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