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(延長戦)親バレのち嵐(4)
幸彦を背に庇ってまくし立てる。
「今夜は家に泊まるって言うお話でしたよね。それをこんな時間にやってきたおじさんたちの方がよほど非常識なんじゃないですか。近所迷惑です。帰ってください」
「だから、幸彦も一緒に連れて帰るから」
「幸彦くんは今日泊まるつもりで来たんです。友だちのうちに夏休み泊まるなんて普通の話でしょう? 僕の両親だっているんだから、不純同性交友なんか起きません。何をそんなに警戒しているんですか?」
「朔夜」
俺の肩に手を掛け止めようとする父さんに煽る母さん。
「そうですよ、今夜は幸彦くんをお預かりしますよ。そういうお約束でしたから」
母さんが出てきたことで、泉ご夫妻は歯切れが悪くなった。
「すみれちゃんだね」
地を這うような声が俺の背後からした。
「今度は何をやらかしたの?」
普段と違う幸彦の声が、幸彦のお母さんからスマートフォンを取り出させた。何か操作して幸彦だけに見えるように震える手が渡した。
幸彦の顔色が変わった。
幸彦の手を掴んで俺も強引にのぞき込む。
そこには俺と幸彦が明らかに“結合”している「写真のような絵」の写真があった。
「ぁ、んの、くされ外道――」
初めて聞いた幸彦の悪罵だった。そして乱暴にお母さんにスマフォを返した。うちの両親はわけがわからず俺たちと幸彦のご両親を見比べている。そのせいかご両親がどんどん小さくなっていく気がした。
「今のは何だったの?」
母さんの当然の疑問だ。さあ、誰が答える?
「僕と朔夜くんの絵です」
答えられなかった両親にじれたように幸彦がうちの両親を見た。
「表には絶対出せない、表に出したら姉が逮捕されるレベルの低俗なエロ絵です」
言い訳のように幸彦のお父さんが付け足した。
「すみれは数枚の写真だけで自在なアングルを描く技術を既に身につけているので、幸彦と朔夜くんが、その、絡んだ絵を描くことができたのです」
「は?」
うちの両親が俺たちを見たので、お父さんは慌てた。
「二人がそんな関係でないことは、絵が妄想の産物で事実ではないというのはわかっているのです。ただ、すみれの画風が写実調なので万一人目に触れたら、そして実際に二人がおつきあいしていると言うことになったら、どう考えても朔夜くんの名誉に傷がついてしまいます。ですから、今は二人には我慢してもらって――」
俺は再びカチンときた。今夜二度目の、キレだった。
「だからなんだって言うんですか? すみれさんの妄想絵と俺たちの関係がなんだと言うんですか? 好き好んでセックス絵のモデルをする変態カップルだと思われるぞというご忠告ですか?」
「朔夜!?」
父さんの声も俺の言葉の奔流を止めることができない。
「それならすみれさんがいる限り俺たちは仲良くしちゃいけないんですか? 好きな人、恋する人の側にいてはいけないんですか? その理屈はおかしくないですか? すみれさんの絵の才能と僕たちの関係は別のもののはずです。僕たち――あるいは弟である幸彦に異常に執着しているすみれさんの方がおかしいじゃない――」
その瞬間頬に強い衝撃を受けて目がちかちかした。父さんにビンタされたと気づいたのは、口の中の血の味と打たれた痛みと熱を感じてからだった。
「朔夜!」
幸彦が悲痛に叫んだ。
俺は言いすぎたということだろう。
俺は幸彦の手を掴むと、大人たちを押しのけ、スニーカーを履きながら幸彦にも同じように促して履かせた。伸びてくる手は暴れてすべて全力ではじき飛ばしてやった。そして幸彦の手を掴むとそのまま玄関を飛び出した。
財布も鍵も何も持っていない。二人ともパジャマにスニーカー。そんなのかまいやしない。
エレベーターに乗って一階に下りるとエントランスからマンションの外へ出てしまった。
夏の夜中はむしむししていて気持ちが悪かった。
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