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(延長戦)壁は壊せるか(2)

 リビングのテーブルは横に長くなるタイプだ。今日は少し広くして、二人隣り合わせで勉強道具を広げている。  が、少なくとも俺は広げているだけでまったく身が入っていなかった。  英語の長文問題集を見ていても、単語が目に入ってこない。頭に浮かぶのは、あの晩幸彦のお母さんのスマフォにあった写真と交番で泣いていた幸彦。  すみれさんは夏休みが終われば、石川県に行ってしまう、自分だけが納得した芸術とやらを持って。それは俺たちにとってどうにも危うい。  自分さえ満足できれば弟もその友だちの権利もどうでもいいというのは、芸術家なら赦されるのか? 法律的にはアウトだろう?  ああ、でも俺は法律家じゃない。結論は出ない。  頭をかきむしる。 「あー、もうっ」 「どうしたの?」  幸彦を驚かせてしまった。 「ああ、ごめん」 「問題、見ようか?」 「いや、大丈夫。数学やってて。わからないところある?」 「僕も大丈夫だよ」  笑った幸彦が可愛くて、思わず軽くキスをしてしまった。幸彦がくすくす笑った。  この笑顔を曇らせるものは許せないな、やっぱり。  だが、正面からすみれさんにぶつかっても駄目だと言うことは、泉家の方々が証明している。 (ぶつかっている?)  俺はその言葉に引っかかりを覚えた。 (俺たちは今みんなすみれさんにぶつかって前をふさがれている) (すみれさんは壁だ) (壁……) 「壁は壊して勧め」は母さんが時々口にする言葉だ。それに対し「方法は正面突破だけじゃない」は父さんの言葉。  だから母さんと話をしたときに壁の話題が出たのだと思うのだが、記憶が曖昧だ。でも何か引っかかる気がする。その時は聞き流したかもしれないけれど、今は鍵になる言葉があったような。 「あーっそうだっ!」  俺はテーブルに両手をついて膝立ちした。幸彦がひっくり返りそうになりながら、俺をまん丸い目で見上げていた。

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