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(延長戦)壁は壊せるか(6)

「お姉さんは美少年にしか興味ないのかな」  唐突な質問だった。幸彦は首をひねる。 「わかりません」 「僕、この人に描いて欲しいな」  何を?と俺は思った。たぶん幸彦も同じだ。 「僕と重夫がセックスしているところを、きちんと見て絵に描いて欲しい」  呆気にとられた。そんな依頼をしたい人がこの世にいるなんて。 「遺したいんだよ、僕が重夫と愛し合った証を」  俺はおそるおそる訊ねた。 「写真じゃなくて、ですか?」 「僕はこの人の目を通して、この人の心を通して描いて欲しい。この人は何かに飢えてる。その糧になっていいと思うし、僕たちを見ることで、妄想だけの世界から引っ張り出してみたい」  そこで康行さんが意地悪く微笑んだ。 「現実の男を見る度胸がお姉さんにあるかは、わからないけどね」  重夫さんも薄く笑っている。 「まあ、目の前で本物のセックスを見たら何らかの衝撃は受けるだろうな」 「AVみたいな演出のない、むき出しの(せい)のね」  康行さんが幸彦を見た。 「どうだろうか。お姉さんに話をしてもらえないかな。きれいな少年しか描きたくない夢見る乙女なら僕の見立て違いだったと諦めるよ」  康行さんが目をつぶった。 「ただ、僕は彼女の絵が好きだ。美少年という飾りを外したときにどれほどのものが描けるのか見てみたい。できれば百号くらいの大きい画面で」 「康行がセックスできるうちでないと無理だしな」  からかうような重夫さんの言葉に康行さんが顔をしかめて見せた。 「がんばってるだろう?」 「がんばってるね、病気のことも年のことも計算に入れても」  康行さんが重夫さんの腹に拳をぐりぐり押し込んだ。 「このちゃかし癖が何とかなって欲しいよ、僕の命があるうちに」  一瞬部屋がしんとした。  重夫さんが康行さんの体を抱きしめる。  言葉はなかった。  重夫さんに真っ直ぐ向き合いたい康行さんと、ちゃかすことで空気を和らげたい重夫さんのどちらが正しいわけでもないのだと、俺は思った。ただ二人ともお互いのためにそれがいいと思ってそうしているのだ。

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