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迷走 湊くん(桜木-5)
お前のせいだと喜之に言われた。晩飯抜きの原因は俺があんな大声で「兄貴をオカズになんかするか」と言ったからだと。
確かにあれでは家の中はどころか、外まで聞こえたかもしれない。
それにしても兄貴が出て来るのは早すぎないか?
俺が全部言い終わるか終わらないかで、姿を見せたぞ。
と言うことは……実は既に廊下にいて、実は途中からは聞いていたと言うことか、もしかして。
あの話の前は何を話していたっけ?
俺が何を妄想して抜こうとしてたかって話だ。
いつもはまぁ、きれいなおねーさんだから、わりと平気で話をしていたのはその通りだ。『それなのに今日に限ってなぜ言えないんだ』と言われてたんだよな。何か都合の悪いことでもあるのかと。
悪いよ。悪い。めちゃくちゃ悪い。
だって俺があの時思っていたのは……兄貴……だから。
言えるわけないだろーが!
図星をさされて、逆上したと思われなかったかな。
飯抜きを宣告された後、部屋に戻りながら則兄が喜之をたしなめてくれたけど。
『まあ、普通自分の兄貴をそんな風に言われたら怒る。湊の反応は当然だろう』
そうしたら喜之の奴――
『うちの兄貴は鑑賞に堪えないから。ガタイよすぎ』
そうぬかしやがった。
それはうちの兄貴には禁句なんだ。
兄貴は則兄に比べて自分の見た目が細いことにものすごーいコンプレックスを抱いている。手合わせすれば十本中八本は兄貴の勝ちで、圧倒的に強いのに、ただ則兄より体が小さいと言うだけで落ち込む。世間の平均からしたら全然小柄じゃないのに。
あれは、父さんのせいだ。
体格なんて兄貴の努力でどうなるわけでもないのに、いつも文句を言っていた。
だいたい自分だって俊之叔父さんと比べて、背は高くなかったはずだ……確か。
あれ、父さんの顔が思い出せない。兄貴を怒鳴っていた時の顔は思い出せるのに。俺を見つめる時はにいったいどんな顔をしていたっけ、あの人は。
……やっぱり思い出せないよ。
兄貴は写真を処分したと言っていた。
だから俺の知っている怒っていない時の顔は、喜之たちが持っているみんなで撮った写真の顔だけだ。当主としてみんなの中心に座り、すましている顔しか俺は知らない。
あ……、何だか落ち込んできた。
昔のいやーなことばかり思い出すのは、腹が減っているせいかなぁ。育ち盛りに飯抜きなんて、まったくひどい兄貴だ。
あんなに怒るなんて、兄貴は途中から俺たちの話を聞いていたに違いない。
それなら入ってきてくれればよかったのに。そうしたらすぐあんな話はやめたのに。
……まさか偶然じゃなくて、立ち聞きしていたわけじゃないよな。
そうなら、兄貴は……むっつりすけべ……。
う、こんなことを考えたと知られたら、兄弟の縁を切られる。あの「絶対零度の微笑み」で『今日限り弟とは思わない』なんて言われる。
ましてや兄貴をオカズにしていたことを知られたら………………間違いなく――殺される。
わー、ごめんなさいごめんなさい、もう邪なことは考えません。この空きっ腹に誓って絶対に考えませんー。
…………何やってるんだ、俺。
殺されないまでも、兄貴ならこう言うんだろうな、『自分が邪だから他人も邪だと思いこむんだ』って。
はい、その通りです。反省してます。ごめんなさい、兄上さま。
あれ、ノックだ。則兄?
「湊、食堂に集合」
何だろう、こんな時間に。
――今度こそ終わり……?――
20031202
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