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逢瀬(隆人×遥)
「俺は年一回しか会えないなんてのは絶対いやだな」
遥が突然きっぱりと言った。隆人が眉をひそめる。
「何の話だ?」
遥が目を丸くしたかと思うと、馬鹿にしたようににやりと笑った。
「風情のない男だな」
隆人がむっとした表情を見せる。遥の髪に向かって伸びてきた手を、遥はかいくぐる。
「今日は何月何日だよ」
「七月なの――」
言葉が途切れた。隆人の顔に苦笑が上る。
「なるほど」
遥がにっと笑う。
「俺はそんなにほったらかされたらひからびるからな」
「だろうな」
そう答えた隆人の笑みには何か意地の悪いものが見て取れた。敏感に遥がそれを察した。
「何だよ、その顔は」
隆人がにやにやしながら遥の側に来て抱き寄せた。
「お前は貪欲だからな」
何に対してという点を隆人は口にしなかったが、遥にはわかったようだ。かっと頬に赤みが差し、隆人の腕の中で暴れた。
「うーるせ、俺のせいばかりじゃねぇぞ。あんただって共犯なんだからな」
「当たり前だ。俺以外の誰かが共犯であってたまるか」
遥が隆人の腕の中で向き直った。両腕をその首に回し、少し背伸びをする。隆人の腕が軽く反った遥の背をしっかりと支える。
当たり前にかわされる口づけは、七夕の夜の年一回の逢瀬ほどの切実さは当然ない。しかしそれほどの心と体のやりとりがあったからこそ、今の遥と隆人の仲が築かれたのだ。そうでなければ決して結びつくことはなかっただろう。
隆人が遥をきつく抱きしめた。
「もっと来られるように――」
「黙れ」
鋭く遥が遮った。
「軽々しく自分を縛る言葉を口にするな。あんたが忙しいのはわかってる」
隆人が苦笑いを浮かべた。
「わかった」
「でも年一回じゃ赦さないからな」
拗ねた口調の遥に隆人が噴いた。
「そういうのは取り越し苦労というんだ」
隆人の抱擁が緩み、遥の顔を隆人がのぞいた。
「俺がそんな我慢をすると思うのか?」
遥は隆人の顔を見つめ返していたが、やがて真面目な顔で言った。
「そうだな。心配する必要なかった」
また隆人が苦笑いを浮かべた。そしてもう一度遥を抱きしめ直した。遥も隆人の体にしっかりと抱きつく。
空は雲に覆われ、星は一つも見えない。七夕の伝説のふたりの逢瀬はかなわぬ夜に、互いにふれあえる喜びをふたりで分かち合った。
――Sweet?――
20050707
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