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(4)SNSからの誘い
新しい切り絵の下絵を描きながら、紫之は傍らのスマートフォンに視線をやる。
SNSアプリが起動されていて、新しいつぶやきが届いたと知ると画面をスワイプする。
紫之のユーザー名は「式部」だ。無論、紫式部から取っている。
切り絵や切り折り紙といった紙工作作品の展示販売をしているプロを何人もフォローしていて、その人たちのやりとりを眺めるのが楽しい。中には紫之がアップした切り絵を見てフォロー返ししてくれている人もいる。
(いつか、こんな人たちと話せたら良いな)
彼らは紫之の憧れなのだ。
中でも鋭人 は一番の憧れだった。
鋭人は小規模な展示会の企画も行う、名の通った人だった。この人の切り折り紙は博物館で展示されることもあるほど精巧なものだ。何より一番始めに紫之の切り絵をほめて、リツイートしてくれたのがこの人だ。そこから紫之のフォロワーは着実に増え、「いいね」も増えた。
紫之はタント紙に目を戻した。今描いているのはまた地獄の番犬ケルベロス。紫之の中に何度も浮かぶ得意な題材だ。SNSのアイコンもこれにしている。
(また褒められたい)
細かい毛並みを、牙を、太い脚を描き込んでいった。
途中経過をアップするためにスマホで写真を撮ろうとして、目をやるとダイレクトメッセージが届いていた。
「鋭人さん?」
メッセージの内容は、鋭人が半年後に企画している展示への参加の誘いだった。参加する以上はできる限り在廊して欲しい、作品が会期中に売れた場合は追納を行って欲しい。もし可能なら詳細は直接会って話をしたい――
「会って、話を……」
手にしたスマホが震え、鼓動が激しく胸を打った。
外は怖い。怖いが、この展示に参加すれば憧れの人たちに会える。SNSの海から紫之を見つけてくれた人たちと現実のつきあいができる。
(参加、したい)
紫之の中で天秤が大きく傾いた瞬間だった。
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