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(9)アカウント凍結
いつものように朝目が覚めてすぐ、SNSをチェックしようとして、紫之は悲鳴を上げた。
「光! 光!」
頭が混乱して光を呼んだ。
足音を立てて光が部屋に来てくれた。
「SNSのアカウントが凍結されてる。こんな嫌らしいアイコンに変わってて――」
確かにケルベロスだったはずのアイコンが、女性の裸になっている。
「これは凍結解除の申請をするしかないな」
光が言った。いつの間にかあふれていた涙を紫之は拭う。
「やり方がわからないよ」
「俺のパソコンで調べよう」
紫之は光の腕にすがった。
「すぐ、今すぐやって」
「わかったよ、紫之」
光が紫之の背を撫でた。
ネットで情報を収集してから、凍結解除申請を出した。
「解除までに一、二週間かかるみたいだな」
「そんなに?」
紫之はまた涙声になっている。
SNSは紫之にとって世界と繋がる生命線なのだ。
「他にメールアドレスがあれば別アカウントを取ることもできるけど、紫之は他にはないよな」
「ないよ。作れるの?」
「仮にあったとしても、元のアカウントが復活したときに、なりすましだと思われると厄介だから、変に騒がない方がいいんじゃないかな」
紫之は混乱したまま、ただ光の言葉に頷く。
「なぜこんなことになっちゃったんだろう」
朝食の席で、トーストの端をねずみのようにかじりながら、紫之が呟いた。
「パスワードが割られたんじゃない?」
「どういうこと?」
「誰かが、紫之のアカウントのパスワードを知って嫌がらせをしたってこと」
「そんな、ひどい……」
「ネットにはそういう嫌がらせに生きがいを感じる馬鹿者もいるんだ」
「SNS使えないと、誰とも連絡取れない」
「ネットは所詮ネットなんだよ」
光の言葉が胸に刺さった。
紫之はトースト半分を、昨日の残りのコンソメスープで飲み込んで、薬を飲んだ。抗不安剤は頓服用の一錠も追加した。
光が顔をのぞき込んできた。
「俺は学校行くから、今日は昼ご飯ちゃんと食べろよ」
「うん……行ってらっしゃい」
光を見送ると鍵をかけ、食器を洗い、自分の部屋に戻った。
すぐスマートフォンを手にしてしまい、そのたびアカウント凍結のことを思い出して気分が沈んだ。
(僕は何もしていないのに)
胃が締め付けられるように不安だった。
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