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(4)良様
一夜明けると、気持ちのよい晴天だった。
車寄せに止められた黒塗りの車から、ひとりの少年が下りてきた。
その両目は閉ざされ、まぶたはひどく傷ついており、まぶたとまぶたの間も真っ直ぐな痕が残っている。
それでも少年は胸を張って堂々としていた。そしてまるで見えているかのように辺りに顔を向けていた。
僕は一歩進み出た。
「おいでなさいませ、良様。わたくしは秀と申します。大奥様より良様のお世話係を仰せつかりました。大奥様のお部屋までご案内いたします」
「そうか。よろしく頼む」
そうおっしゃって、手を差し出された。
第二次性徴期はまだ来ていらっしゃらないはずなのに、僕にですらこの方がアルファなのがわかった。
その手を恭しくとり、足元のようすを細かくお伝えしながらお屋敷の中へとご案内した。
良様は意外なことに僕に懐いてくださった。
僕の知るアルファはオメガなどに弱みをみせたがらない。
なのに良様はご自分の迷いや悩みを打ち明けてくださる。
学校に行けていないことや、今学べないことを非常に苦にされていた。時間があれば特殊な装置のついたパソコンで何か難しいことをされていらっしゃるのに。
この方は特別なのかもしれないと思わざるを得なかった。
発情期には僕はお休みをいただく。といっても誰にも手を出されることのないよう大奥様の手で地下の座敷牢に閉じ込められる。そこで、燃えるような飢餓感に耐えながら一週間を過ごすだけだ。明けて外に出られるようになっても虚しい日々だった。
それが良様がおいでになってからは変わった。苦しみの一週間が明けてお側へ戻ると、子どもっぽく甘えておいでになるのだ。そんな良様に僕の心は虜になった。
お役に立っている、側にいていいとおっしゃってくれている。
そんな良様だからか、僕がどこかへ政略の道具としてやられるであろうことにひどく動揺された。僕の行く末のことなど誰も気に留めないと思っていたのに。
良様――
お名前を口の中で転がすようにそっと呟く。
いつの間にか僕の心は良様のことで満たされてしまった。
だから発情期で地下の座敷牢にこもる僕を探し当ててしまわれた良様に、僕は夢を見ているような思いがした。
まだ十歳の小柄で柔軟な体が、牢の格子のすき間から中へ入ってきて、アルファのフェロモンを僕にまともに浴びせかけた。
僕は良様の威圧と欲望、そして僕自身の浅ましい肉欲に身動きが取れなくなった。
そして良様に望まれて、うなじを噛まれて、契りを交わしたことはこれ以上のない快楽で幸福だった。
「秀、秀、僕のものだ、僕を感じろ――」
「ああっ、良様、良様、もっと、もっと秀を責めてください、良様を感じたいっ」
短い交わりで僕は激しく喘ぎ、良様を逃がさぬように脚を絡みつけ、中を締め付けて自ら腰を振り、歓喜の声をあげ、上り詰めた。
でも、良様を望むことは大奥様を裏切ること。
まして僕が良様の兄だったなんて。
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