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「発情発生促進剤。通称ウルトラエクスタシー。パーティードラッグのMBMAとは全く別物だよ?」
秀人は何もわかっていない風だ。
「何それ?」
「オメガに強制的にヒートを起こさせる闇のお薬」
秀人が沈黙した。
明嗣は声のトーンを上げた。
「今日はあの騒ぎの前に何があったの?」
「教授と研究テーマでもめて……」
「その人、陸上部の何?」
「……監督」
明嗣は立ち上がりながら肘まで袖まくりをした。手首の上まで手を洗い消毒する。それから採血ホルダーや真空採血管など機材を取り出す。
その様子に秀人が目を丸くしている。
「採尿と採血させて」
「採尿はともかく採血って」
慌てる秀人に明嗣は微笑んだ。
「臨床検査技師の資格は持ってるよ。薬剤師もね」
採血が終わると、明嗣は紙コップを秀人に渡してトイレに行かせた。その間にスマートフォンで電話をかけた。留守電に繋がる。
「はーい、連絡ちょうだい」
切ったと思うと、すぐに折り返しがあった。
『はいはーい、なになに?』
「東坂大学の体育学科および陸上部、案件1で。採尿採血済。あと、昼飯二人分」
『りょうかーい。お届けと回収いきまーす』
電話を切って明嗣は秀人から渡された紙コップの中身を採尿管《スピッツ》に移すなどの処理をした。
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