7 / 18

(7)

「発情発生促進剤。通称ウルトラエクスタシー。パーティードラッグのMBMAとは全く別物だよ?」  秀人は何もわかっていない風だ。 「何それ?」 「オメガに強制的にヒートを起こさせる闇のお薬」  秀人が沈黙した。  明嗣は声のトーンを上げた。 「今日はあの騒ぎの前に何があったの?」 「教授と研究テーマでもめて……」 「その人、陸上部の何?」 「……監督」  明嗣は立ち上がりながら肘まで袖まくりをした。手首の上まで手を洗い消毒する。それから採血ホルダーや真空採血管など機材を取り出す。  その様子に秀人が目を丸くしている。 「採尿と採血させて」 「採尿はともかく採血って」  慌てる秀人に明嗣は微笑んだ。 「臨床検査技師の資格は持ってるよ。薬剤師もね」  採血が終わると、明嗣は紙コップを秀人に渡してトイレに行かせた。その間にスマートフォンで電話をかけた。留守電に繋がる。 「はーい、連絡ちょうだい」  切ったと思うと、すぐに折り返しがあった。 『はいはーい、なになに?』 「東坂大学の体育学科および陸上部、案件1で。採尿採血済。あと、昼飯二人分」 『りょうかーい。お届けと回収いきまーす』  電話を切って明嗣は秀人から渡された紙コップの中身を採尿管《スピッツ》に移すなどの処理をした。

ともだちにシェアしよう!