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明嗣は秀人の隣に場所を移して座り、肩を抱いて髪に頬を寄せた。
「君は大学の名を売る以上の能力がありすぎたのさ。オメガの希望の星だよ」
明嗣は秀人の涙を拭うと、唇を素早く奪った。
「何すんだよっ」
秀人が明嗣を突き飛ばし、唇をこすりながら後ずさった。その顔は真っ赤だ。
明嗣はにこっと笑って見せた。
「親愛の情」
秀人が何か叫ぼうとしたその時、二階の裏口のドアがノックされた。トトン、トトン。
『出前でーす』
ドアを開ければいつもの黒髪くしゃくしゃ猫っ毛の男が大きく膨らんだ白いレジ袋を提げていた。
「表に人は?」
「いませんでしたよ」
「じゃあ、これ」
明嗣は秀人から採取した試料を入れた運搬用バッグを渡す。
「了解、ボス」
すぐに去って行った。
「今の人は?」
秀人の問いには答えず、明嗣はラーメン容器が入っていると覚しきレジ袋を掲げて見せ、にっこり笑いかけた。
「ラーメン喰お?」
男が持ってきたのはチャーシュー麺だった。
(あいつ経費に自分の分もつけるつもりだな)
チャーシューを口に運びながら苦笑しそうになる。秀人は「後で金払います」と殊勝なことを言うので、よけいにかわいく思えた。
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