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6.ミニ雪だるま(3)

 俺は二人分のバッグを置いて、歩道の反対側から綺麗な雪をかき集めてきた。  肇がそんな俺に目を(みは)った。 「秋央」  俺は微笑ってみせる。 「あちこちから集めないと足りないだろ?」 「はいっ」  笑顔が戻った肇が立ち上がり、まだ踏まれていない綺麗な雪を取りに行った。  ぺたぺたと雪だるまに雪を盛りながら俺は思う。 (俺は雪はただの面倒な自然現象だと思ってきたけれど、肇にはそうじゃないんだな)  もしかすると肇だけじゃなく、この街で暮らす人の中では雪は特別なものなのかもしれない。 「それにしてもいきなり投げ飛ばして、怪我をさせたらどうするつもりだったんだ」  手を動かしながら訊ねる。肇は雪を丁寧に雪だるまの頭につけながら答えた。 「ちゃんと雪がクッションになるところを選んで落としましたし、叩きつけないように力を逃したのは、彼女の時と一緒です」  肇の言葉に俺は手を止めてしまった。「彼女」というのは俺のストーカーだった元同僚だ。肇に刃物を向けて、逆に肇に投げられて捕まり、警察に引き渡された。あの時、肇は「彼女」に打ち身すら負わせなかったらしい。  俺はふっと息を吐いた。肇は力加減というものをきちんと知っているのだ。 「それに雪だるまを壊す奴は絶対に許しません。作った人の思いがこもってますからね。これだけは秋央が何と言っても曲げません」  輝くその目には強い意思があふれていた。  雪を集めるために立ち上がった俺は、少し熱くなった目を冷ますように雪雲の空に向けた。

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