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9.かき氷(中)
いつものグリーンカレーで食事の後、俺が食器や鍋を洗っていると、肇が「器借りますね」と言ったので「ああ」と振り向きもせず答えた。
洗い終わって手を拭き、リビングに戻ると肇が部屋にいない。寝室にも、トイレにもバスルームにもいない。でも玄関に靴はある。
困惑していた俺はふとバルコニーに続くガラス戸のカーテンに気がついた。すき間がある。
(まさか……)
思い切ってカーテンを開けると、そこにガラスの器を持ってうろうろしている肇がいた。
慌ててガラス戸を開ける。吹き込む冷気に体がすくみ上がる。
「何しているんだ」
「おいしそうじゃないですか」
にこにこと見せられた器には雪が山と盛られていた。
俺は額に手を当てて顔をしかめる。
「雪ってのは空気中の塵 に水蒸気が付着してできてるんだぞ。そんなもん喰ったら腹壊す」
「俺が喰いますから」
肇は譲る気がないらしい。
冷静に返す。
「かき氷のシロップなんてうちにはないぞ」
「あ、そうか」
ぷしゅーと音が聞こえてきそうな肇のしょげぶりだった。俺は肩をすくめる。
「もらいもんのコンフィチュールならある」
「誰に?! そして、それ何?!」
即時の鋭い問い返しに俺は苦笑いを浮かべた。
「近所のパン屋のフェアの賞品。くじで当てた。ジャムに似てるけどシロップっぽい」
肇が一瞬で破顔して、部屋の中に戻ってきた。
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