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加賀谷の手がクローゼットの扉を開ける。その裏には全身を映すことのできる鏡がはめ込まれている。
蒼白の遥の顔が映る。切ることを許されない髪が乱れ、その間からのぞく唇だけが異常に赤い。
「そっくりになってきたな」
低い声で加賀谷が言った。
「本当に父親そっくりだ。何と美しいんだ。お前は」
背けようとすると、髪を掴まれて鏡の方を向かされた。
「抜けるように白い肌、大きな目に黒目がちな瞳、長いまつげ、女性のような小さな鼻、バラ色のふっくらした頬、その花弁のような唇。本当にそっくりじゃないか」
遥は歯を食いしばる。
「大好きな父親に似ていると言われたらもっと喜ぶだろう、普通は。それとも、本当は父親が嫌いなのか?」
その遥の耳に毒が注ぎ込まれた。
「もしかしたら、嫌いなのはその顔か? そんな気は全くないのに誘っていると思いこまれ、さんざんな目にあったあげくに早死にした父親そっくりの顔か?」
全身の血が凍った気がした。
次の瞬間、今までにない力で男をふりほどこうと暴れた。
が、その反応をあらかじめ予想していたらしい加賀谷が、自分の体ごと遥を鏡に押しつけた。
重い体に押さえつけられて、息が苦しい。
「その顔で、男を知ったその体で外へ出られては困る。ここを出て十分も歩かないうちに、押し倒されて凌辱されるだろう。お前は私以外の人間と肌を合わせることは許されない。それが番 ということだからな」
「そんな、こと、みとめな……」
「お前がどう思おうと、何を言おうと、私の運命に結びつけられてしまったんだ。この背に刻まれたこの証によって」
遥の背中を加賀谷の手が這い回る。
遥は歯を食いしばってその感触に耐えた。
加賀谷の手が下へ降りてきた。遥の尻に触れる。ゆっくりと奥へ忍び込んでくる。
鳥肌が立つ。なのにその一方で、下腹に何かが起きる。まだ変化には至らないが、体の中と心のなかにさざ波が生じる。
必死にそんな自分を打ち消す。
そんなことがあってはならない。そんなことは認めない。
フレテホシイ。イレテホシイ。
違う、そうじゃない!
絶対に違う!
加賀谷の指がそこに触れた。
体が小さく跳ねる。
乾いたままの指が無理矢理ねじ込まれる。肉が引きつれる。
こぼれそうになる呻きを必死にかみ殺す。
指がくねくねと動き回る。無理に広げられる入り口の肉が裂けてしまいそうだ。
いくら頻繁にこの男に犯されてきたとはいえ、女とは違う。その部分はあくまでも排泄のための器官だ。
いつの間にか手首を放されていたが、あまりの痛みで遥は動けない。そこを指で開かれている今はそれに耐えるので精一杯だった。
下の方でジッパーを下ろす小さな音がした。布のすれる音もする。
まさか――
この潤いのない状態でやられたら、本当に我慢できない。加賀谷本人も相当に痛いはずだ。
しかし、加賀谷はそのつもりらしい。
指で遥のそこをこじ開けて、自分のものを押し当てた。
じりじりと、引きつれを繰り返しながら、加賀谷の男が入ってくる。
痛みに目の前がちかちかする。
「い、たい……」
訴えずにはいられなかった。乾いた肉によって中に遥自身の肉も引き込まれる気がする。
「や、めて……、やめてくれ……」
加賀谷は何も言わない。しかし楽でないことは、ときどき息を飲んでは動きを止めていることからもわかる。
長い時間をかけて、やっと加賀谷の体を受け入れた。
今にも膝が崩れてしまいそうだ。鏡に向かって苦しい息を吐き続けたせいで、鏡は曇り、露が付いている。
加賀谷の息も荒かった。
この男は、おかしい。
そう思った。何故わざわざ自分も傷つけるようなことをするのか。
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