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 真っ先にはずしてもらえたのはアイマスクだった。  身支度を整える加賀谷の姿をぼんやりと目で追う。頭がはっきりしない。  薬なしでと加賀谷は言った。なのにこの酩酊感は何なのだろう。風呂場でも犯されて、のぼせたからだろうか。 「話があるのだろう?」  猿ぐつわをはずされた。  遥は思わずため息をついた。それから、目で加賀谷を見上げた。 「父さんの遺骨をどうした?」  声がかすれている。  加賀谷は鏡もなしにネクタイをきれいに結ぶ。 「ちゃんと管理している」 「返せ」 「返せないな」 「なん――」  遥はむせて、激しく咳き込んだ。  加賀谷に背をさすられた。 「詳しいことは、あとで説明してやる」 「後っていつだ?」 「お前が披露目で上手にいけたらな」  絶句して加賀谷の顔を見た。顔に血の赤みが上るのを感じる。 「お前は大人しく私とセックスして今のように悦んで泣き声を上げて、いけばいい」 「見られてて、そんなことできるか」  遥は吐き捨てるように言った。  加賀谷の表情が変わった。  遥は顎を捕まれ、加賀谷の方を向かされた。 「できなければ、どうなると思う?」  遥はその冷たい眼差しを、言葉なく見返す。  感情のこもらない声が言葉を続けた。 「つがいであると証明できなければ、お前はその場で私以外の男達に犯される」  さあっと頭から血が引くのがわかった。罵りたいのに、声が出ない。 「前に言っただろう、覚悟しておけと」  加賀谷が遥の体を抱きしめた。突然のことに遥は反応できなかった。 「一族外の者は、一族内の者以上の結びつきがあることを示さなくてはならない。お前が女なら『演技でいったふりをしろ』と言えるが、男だとそうはいかないからな」  遥は喘いだ。胸が苦しい。視界がちらちらし始めている。 「どうしても無理そうならば、やはり催淫剤だ。そういう普段と違う状態で使うと、量を増やさないと効かないかもしれない。だから使いたくはないが、仕方ない」  加賀谷がため息交じりに言った。 「お前だって、輪姦されるのはいやだろう?――遥? 遥、どうした?」  隆人の声が遠くなっていった。  誰かが小声で話をしている。やさしく髪を梳かれているのが気持ちいい。 「おそらくはストレスでしょう。この状況下ですから。できればここ以外の場所で休ませて差し上げた方がよろしいかと思います」 「この状況だから動かせないんだ。お前にもわかるだろうが」 「それは、もちろん……」 「終わってしまえば、多少は自由にもさせられる。だが、今何かあったらすべてが台無しだ。同じことを繰り返すわけにはいかない」 「承知しております」 「何とか大人しくさせておいてくれ。頼む。それが自分にとって一番いいと、遥は知らないのだから」 (なに……? 誰? 俺にとって、一番いい?) 「説明して差し上げればよろしいのでは?」 「それはできない。するつもりもない」  加賀谷の声だと、やっと気がついた。  目を開けると、ベッドから立ち上がった加賀谷と見たことのある男が立っていた。  髪を梳いていたのは加賀谷か…… 「俊介!」  加賀谷が桜木を呼んだ。 「はい」  現れた桜木の顔を見て、その男が誰なのかわかった。加賀谷と話していたのは、医者だ。ここにも何度か来ていたはずだ。ただ遥は拘束されたり目隠しされていることが多かったため、顔はあまり見ていない。はっきり見たのは初めて会った時で、それは拉致されたワゴン車の中だ。 「暴れて怪我でもされたら困る。我々にとって大切な体だ。今日は丁重に縛らせていただけ」  遥は加賀谷から顔を背けた。  加賀谷と医者が部屋から出ていったようだ。 「失礼いたします」  桜木が遥の手にあの鎖の長い手錠をかける。その上で手首に傷を付けないために毛皮様のものが巻き付けられる。  口をきく気力もない。  今はただ休みたいだけだった。

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