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知識として持っているキスと、実際のキスは遥にとっては違うものだった。
意思を持って遥の口中を生温かい加賀谷の舌がうごめき回る。遥の歯や歯茎や唇の内側――ありとあらゆる部分を触れて回る。
その異様な感触は、遥に拒否感をもたらした。
体の中に性器を突っ込まれることとはまた違う汚らわしさだった。
そんな行為を何度も繰り返される。
何度も逃げようとしたが、加賀谷に押さえ込まれた体は動かない。顔でさえ、加賀谷があまりに深く遥を求めるので、わずかに背けることすら許されない。
遥は呻きながら、それに耐えた。
やっと解放された時、遥は顔を背けて目をつぶり、乱れる息を吐いた。
その遥の喉を加賀谷の唇が這う。手が肌を探るように服の下に入り込んでくる。
遥は身をよじって逃げようとした。
「逃げるな」
低い声に遥はびくっと身を震わせる。
「お前はあまりにも物を知らな過ぎる」
加賀谷がささやきながら、ゆっくりと遥の体から服を剥いでいく。
「悪かった、な……」
精一杯の強がりも胸をまさぐられて、弱々しくなってしまう。
「こんなに性的に無知だと知っていたら、もう少しやさしくしてやるのだった」
うるさいと言おうとして開いた口から、頼りない声しか出てこない。
されたことのない口づけや、指や手の動き、触れ合う肌や布の感触が遥を戸惑わせる。
性器に触れられていないのに、全身がぞくぞくする。少しずつ体が熱くなってくる。
執拗に遥の肌の上を加賀谷の唇や手がはい回る。
うつぶせにされて、背骨に沿って降りていく口づけに遥は喘いだ。
「や、だ……」
たまりかねて加賀谷の唇から逃れようとすると、胸にきつく抱き込まれる。
「どうして逃げる?」
「いやだ。気持ち悪い」
よじる体を更にしっかりと押さえ込まれた。尻に加賀谷の欲望が当たっている。
「感じるの間違いだろう?」
「違う」
「ならばどうしてそんなに息が乱れているんだ」
悔しさに遥は唇をかんだ。
「セックスはペニスやアナルだけでするものではない。全身で感じるものだ」
首筋をなめられて、遥の体はびくりとすくむ。それを承知の上でなのだろう。加賀谷はそこを何度も舌を這わせる。
「ぁ、ああ……」
こぼしたくないと思っても、声は唇をついてもれてしまう。甘ったるい、吐息に似た声に自分自身がいやになる。
「もう少し正直になった方がいい。自分がどうされたいのか。どうされると気持ちいいと感じるのか」
はいていたジーンズもはぎ取られて、遥は素裸にされた。
加賀谷のものを奥深くまで挿れられて、背後からその胸にぴったりと抱き寄せられて、身動きができない。
加賀谷の片腕にしっかりと抱えられて、もう一方の腕は遥の体を撫で回すために動き続けている。
激しさのない愛撫とセックスは、かえって遥を消耗させた。
一体あとどのくらい加賀谷をこうして受け入れていなければならないのか。遥にはわからない。
中で加賀谷に動かれて、遥はまた身を震わせた。腰から爪先へ電撃が走る。
体の中に加賀谷がいるということ、それが快感になっていることを遥は思い知らされた。
「一晩中こうしていてやろうか」
加賀谷のからかいに遥は口答えをした。
「俺が何を言っても、あんたがそうすると決めたら俺には逃げようがない」
一瞬の間があった。
「そうか。そうだな」
囁きとともに耳殻を舌がたどる。びくんとすくみ上がってしまった。体内の加賀谷の存在を知る。
「体を強ばらせるな」
加賀谷の声とともに、遥の乳首が爪ではじかれた。
「あっ」
声を上げ、のけぞった時にまた腹に力が入った。加賀谷とつなげられていることを再び意識する。
「このままでいいのか」
耳元にささやかれる。
「さっさと、終わりにしろ」
加賀谷が笑った。
「相変わらず素直にならない口だな。そんなに責めて欲しいのか」
股間のものを握られる。
遥の体が期待に震えた。
人の手でいかされることは気持ちがいいと、遥は知ってしまった。たとえそれがこの加賀谷であっても、快感は得られる。
そして、期待通り加賀谷が遥の中と外の両方から動き始めた。
すぐに体もこぼれる息も熱くなる。
「ああ……、は、あ……」
「この方がいいのか。かわいいな、お前は」
笑いを含んだ声にからかわれても、何も言い返せなかった。体の中のあふれるような快楽に遥は完全に取り込まれていた。
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