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 なぜ遥が襲撃対象にされたのか。  加賀谷には結果的にはぐらかされた。  その釈然としない気持ちは、桜木から寝室やリビングの南側のカーテンを開けられないと言われた時点で、いらだたしさに変わった。 「どうして? のぞかれると困るからか?」 「その通りです。遥様のおいでになる位置が正確にわかると困ります」 「狙撃でもされるというのか? 目の前の建物ははるか彼方だぞ」  桜木は静かに丁寧に答える。 「昨日は上階より侵入者が現れました。ここは最上階です。現在はそちらへの登り口も監視しておりますので、多少は危険は減っていると考えられますが、ゼロになることはございません。特殊強化ガラスが間に合いませんでしたので」 「カーテンが駄目なら、窓もなんだよな」 「さようです」  大声で非難しようとした遥に、桜木は「ただし」と言った。 「隆人様がお見えの時は、開けてもかまわないと存じます」  遥は顔をしかめた。 「そっちの方が都合が悪いんじゃないのか? あいつが来ている時はずーっとやってるのにか?」  桜木が咳をした。遥の露骨な言い方のせいだろうか。 「はい。それは別に問題ございません。また、すべては御披露目が終わるまでのことです。どうかご了承ください」  遥は桜木のかすかに赤くなっている頬を黙って見上げ、それからゆっくりと言った。 「お前、俺よりうぶだな」  桜木の顔が真っ赤に染まった。  逃げるように桜木が出ていった後で、遥はまたベッドにもたれながらラグの上に座り込んだ。  おかしいと、思った。  普通は男同士のセックスなど他人に見られるべきではないだろう。  その上加賀谷は結婚しているらしい。婚姻外ならば相手が女性だったとしても、加賀谷には不都合になるはずだ。男同士ならなおさらだ。  しかし、遥ひとりではカーテンを開けてはならず、加賀谷がいれば開けてもいいと桜木は言う。  では、むしろ加賀谷がここに来ていることを知らせようとしている可能性もある。  それは誰に向かってか? 襲撃者、もしくは襲撃の首謀者にだろう。  加賀谷がいれば、襲ってこないと言うことなのだろうか。  それならば襲撃者は加賀谷を恐れていることになる。その者達は加賀谷には危害を加えられない。しかし、遥に危害を加えることにはためらいがない。  そんな相手は、いったい誰なのか。  この点について桜木に疑問を投げつけた。  しかし、さすがに答えは返ってこなかった。  ただ、桜木は彼ら一族の内情について訊いた時に答えなくなるのははっきりしている。  それならば、今遥が抱えている疑問に答えないのは、彼らの一族の内部事情と深い関わりがあるからだ。  その状況から導き出される答え――  遥を襲うのは、加賀谷一族の者だ。

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