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 遥が夕食を摂っているときに、加賀谷が来た。 「まだ食べ終わっていないのか」  そう言われて遥はじろっと加賀谷を見上げた。 「まあいい。私は仕事を片づけているから、食べ終わったら書斎に来い。いいな、遥」  加賀谷はダイニングから出て行った。  遥はため息をついて、側にいる桜木を見上げると、桜木が小さな声で言った。 「隆人様は、食事の時間がとても短い方です。人に合わせる必要がある時だけ、ゆっくり食事なさいますが、普段は食べる物にも気を使われません。たぶん今日もファーストフードか何かでお済ませになったのでしょう」  びっくりして桜木を見つめた。 「私がこんなことを申し上げたことは、内緒にしてくださいね」  桜木が笑った。  遥はまた金目鯛の煮付けと格闘し始めた。  正直、意外だった。  桜木がこんなことを言うことにも驚いたが、あの威張り散らした男がハンバーガーを食べるとは。  高そうなスーツ姿でハンバーガーをかぶりつく姿は、とても想像できなかった。  何とか桜木の許可が下りるところまで食事量をこなし、遥は立ちあがった。  逆らっても仕方がない。  遥は書斎へ行く。  ドアが細く開いている。  遥はドアをノックした。 「入れ」  ドアを開けて中へ入る。加賀谷は顔も上げずに傍らの椅子をさした。 「そこに座れ」  命じられたとおり、遥はその椅子に歩み寄って腰を下ろした。  加賀谷は机の上の書類をじっと見つめては、何かサインをしている。  いわゆる社長決裁だろうか?  ぼんやりとその横顔を見つめる。 「暇そうだな」  加賀谷がやっと顔を上げた。 「私も書類を読むのには飽きてきた。お前に楽しませてもらおうか。ズボンと下着を脱げ」  顔をしかめると、加賀谷が笑った。 「今脱ぐのも後で脱ぐのも大した違いではないだろう」  遥は唇をきつく結んで、ベルトをはずし始めた。 「今日はジーンズではないんだな。湊の趣味か」  遥は答えない。だが、加賀谷の言うとおりだった。  桜木は遥にジーンズをはかせるのが好きだ。しかし湊はそうでもないらしい。二人に共通しているのは、遥の色の白さを際だたせるためにか、顔の近くに比較的淡い色を置きたがるということだった。  今日はサンドベージュのボトムに青と緑の細いチェックのシャツを着ている。 「お前の自分に対する見立ての悪さはよく知っているから、あの二人に任せておいた方が無難だな」  再び書類に目をもどした加賀谷がそう言った。  呆気にとられた後、羞恥に遥の体が熱くなった。 (俺に服を選ばせないのは、そう言うことか)  脱いだものを床にたたきつけたくなるのを我慢した。  そんな遥の心の内を知ってか知らずか、加賀谷は続けた。 「父親譲りなのだろうな、自分の価値を低く見せるような似合わないものを選んで着るのは」 「え?」  思わず訊きかえしてしまった。  加賀谷が肩をすくめる。 「目立ちたくないという心理なのだろう? お前がどこまで意図していたかは知らないが、お前の父親の場合は意図的にそうしていたはずだ」  遥はそんなことには気づいていなかった。父の着る服など、気に留めたこともなかった。  ペンでとんとんと書類を叩く音に、遥の意識が加賀谷に戻った。  加賀谷が口を開いた。 「椅子に座ってマスターベーションしろ、遥」  遥はぎょっとして、加賀谷を見た。  加賀谷は静かに言う。 「聞こえなかったか? 自慰をして見せろと言った」 「何で、あんたの目の前でやらなきゃなんないんだよ」 「どれだけ自分の快楽に溺れられるかに興味がある」 「いやだ!」  遥はきっぱりと否定した。加賀谷はそんな遥に腹を立ててはいないようだ。むしろおもしろがっているらしい。それがよけいしゃくに障る。 「では仕方ないな」  加賀谷が立ちあがった。  反射的に遥はすくみ上がる。  加賀谷が近づいてきた。  逃げようとした手首を捕まれ、無理矢理椅子に座らされた。肘掛けの部分に手首を縛り付けられる。  その手際の鮮やかさといい、紐が用意されていたことといい、明らかに加賀谷は遥の反応を予想していたに違いない。  遥は怒りと恥ずかしさにうつむいてしまった。 「さて、仕事は終わりにするか」  のんびりとそう言うと机の前に戻った加賀谷は書類をアタッシェケースに丁寧にしまった。

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