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誰かに肩を揺り動かされた。
「遥様、またこのようなところでお休みになって。お風邪を召しますよ」
やっぱり叱られた。
目をこすりながら起きあがる。
「おはようございます」
桜木だった。
ふだんと何も変わりのない、落ち着いて静かな笑みを浮かべている。
「おはよ」
上目にそう言い返す。
(夜中のことを何か触れられたら、俺はまたキレる)
そう思ってびくびくしていたが、桜木はまったくそれまでの朝と何も変わらなかった。
遥が起きると、桜木はクローゼットの方へ行く。着替えなどを出しながら、遥に指示を出す。
「シャワーを浴びてください。おむすびをご用意いたしましたので、それを召し上がっていただいたら、すぐにこちらを発ちます」
「ん……」
まだぼんやりしていて、体の動きが鈍い。
ベッドに手をついてなんとか立ち上がり、寝室を出る。
浴室に行こうとしたとき、のぞき部屋から湊が出てきた。
「おはようございます」
湊は手にスマートフォンを持っている。桜木に電話なのだろう。
ところが、湊が遥にそれを差しだした。
「お電話です」
どきんと胸がなった。頭が真っ白になる。
手を伸ばしかねている遥の手を湊がつかみ、持ち上げた。その手のひらにスマホが載せられる。
何も言わずに湊は身を翻した。
遥はおそるおそる受話口を耳に当てる。
「もしもし……」
『おはよう。よく眠れたか?』
やはり加賀谷だった。胸に何かがこみ上げるのを感じた。思うことがまだ整理できていなくて言葉にならない。
『――眠れるわけはないか』
電話の向こうで加賀谷が自嘲している姿が見える気がした。
加賀谷の口調が切り替わった。
『本当は今日お前と一緒に行くはずだったが、都合が悪くなった。俺は先に出るから、向こうに着いてから会おう』
遥はその明るい加賀谷の声をじっと聞いているだけで、一切答えられない。しかし、加賀谷がそれを気にしているようすはない。
『車の中ではできるだけ横になって休んでおけ。わかったな』
押しつけがましい話し方と思う一方で気を使われていると思う。
この男はわかりにくい。
『では、また後で』
「あ」
切ろうとしていると知った途端、声が出ていた。
『どうした、遥?』
不思議そうに加賀谷が言った。
「なんでもない」
慌てて突き放すようにそう言い返す。
『では、切るぞ。向こうで待っている』
通話が切れ、何も聞こえてこなくなった。
遥はのぞき部屋の湊にスマートフォンを返し、浴室へ行った。心が落ち着いた気がした。
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