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 のけぞったとき、ふと目を開けてしまった。  遥の体が強ばった。 (見られている、広間中の目に)  すべての者が、遥の痴態を見つめている。加賀谷にその身を深々と貫かれて、快楽に酔ってとろけるようないやらしい声をあげている遥を。 (怖い)  その瞬間、初めて遥はそう思った。  しかも、他のものとは違う一対の眼差しに遥の目は釘付けになってしまった。 『淫売』  その目はそう蔑んでいるようだった。  汚らわしそうに遥を冷たい目で見つめているのは、加賀谷克己だった。 (いやだ) (そんな目で見るな) (好きでこんなことをしているわけじゃない)  そう思ったとき加賀谷に抉られて、遥は甘ったるい悲鳴を上げた。 『男をくわえ込むことが好きなくせに』 『突っ込まれることが気持ちよくてたまらないくせに』 『淫売』 『男にやらせて生活している卑しい奴め』  遥は必死に打ち消そうとする。 (違う) (こんなこと、好きじゃない) 『気持ちいいくせに。うれしくてたまらないくせに』 (違う) 『昨夜、加賀谷のいないあのベッドにいるのが辛くて、ラグの上で寝たくせに』 (あれは――) 「遥、どうした」  加賀谷の声がする。  しかし、その顔が見えない。  あふれてしまった涙で前が見えない。  目隠しの布は涙を満足に吸い取るような材質ではなく、涙はそこにたまってしまうばかりだ。  嗚咽がこぼれそうになる。  高まっていた気持ちが嘘のように沈んでいく。 (駄目だ) (俺はイけない) (失敗する) (輪姦されるのだ) (ここにいる連中は、みんなそれを望んでいる)  突然目隠しをむしり取られた。  灯りがまぶしい。 「私だけを見ていろ」  加賀谷が優しくそう言い、強引に遥に口づけた。つながっているところが引きつれて痛い。  遥は加賀谷の体にしがみついた。 「お前の体は、私のためにあるんだ。私を守るため、私に快楽を与えるために」  体の奥深くに叩きつけられる加賀谷の男を感じる。内臓を直接に殴られているようだ。  苦しい。痛い。 「お前のような者にあったことはない。お前以上に私を高ぶらせてくれる人間はいない。快感を与えてくれる者もいない。お前を絶対に人に渡さない。私のものだ、遥」  息ができないほど激しく追い込まれているのに、体が熱くなる。  苦痛を覚えているはずなのに、肉の悦びがある。 (気が、くるいそう)  声がこぼれる。  もう何も聞こえない。何も見えない。ただ抉られているそこが泉のように快感をあふれさせ、遥の体を満たしている。  体が熱い。今まで感じたことのないくらいに。  それは恐怖ですらあった。  何も考えられなくなる。  遥はしがみつく腕に力を込めた。 「ああぁっ」 「はるか!」  加賀谷に、名前を呼ばれた気がした。 「体を起こすぞ!」  隆人の腕に抱え起こされて、舞台の奥を向かされたのがわかった。  広間中がどよめいたのが微かにわかる――『凰だ』『凰の御証だ』『何とお美しいお姿』  さざ波のような言葉が届いた次の瞬間、自重で体が沈み、加賀谷との結合が更に深くなって突き上げられた。 「いけっ、はるか!」 「あああぁぁーっ」  加賀谷の言葉と激しい突き上げに遥は身をのけぞらせ目を開けた。  悦楽を解放するその瞬間、遥はその目に、闇を払い、まぶしく天を翔る金色(こんじき)(おおとり)を見た。  気がついたとき、披露目司が何かを示しながら広間に向かって語りかけているのがぼんやりわかった。  遥は加賀谷の体から下ろされ、座らされようとしていた。こぼれだした生温かいものが遥の足首のあたりを汚す。 「しっかりしろ。もう少しだ」  耳元に力強くささやかれる。 「私に対して『幾久しく』と言え。決まり事だ」  まだかすんでいる目で、身を離した加賀谷を追う。  ぶるぶると震える腕でかろうじて身を支えながら、頭を下げる。 「いく、ひさし、く……」 「今度は広間に向かってだ。同じように」  今にも崩れそうになる体を何とか向きを変える。  皆の視線が遥に集まっている。  もう恐怖も嫌悪も感じない。  遥は頭を下げる。 「いくひさしく――」  「応っ」と答える広間のようすを耳にしながら、そのまま闇に沈むように、意識をなくした。  闇の中に光が舞い降りた。 『ようも人界の凰になりおったな、人の子』  金色の男は怒っているようだ。 『せっかく我が束縛を断ち切る絶好の機会であったのに、邪魔しおって。その上そなたが戻ってきてしまったがために、あの者も戻ってきてしまいおった。これでは我が遊べないではないか。恨むぞ』 (おまえは何者なんだ?)  男は呆れたようで、次いで笑った。 『未だわからぬか? ならばまだまだ楽しめそうじゃの。また会おうぞ。さらばじゃ』  両の腕を広げると袂と思った部分が羽根と変わり、翼となった。  バサリと音がして、金色の凰は闇へ飛び去った。

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