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墓参(7)

 階段を下りながら隆人が切り出した。 「ふもとについたら、俊介は私が預かる。他の桜木がそこで待っているはずだ。そこで入れ替わる」 「わかった」  俊介は隆人の忠犬だから直接の任務はさぞうれしかろうと思い、前を行く俊介の顔をのぞき込んだ。 「遥様!」  俊介が驚いた。 「危のうございます」 「遥、何をやっている」  隆人は気づいていない。今、俊介がとても暗い表情を浮かべていたことを。  足を止めた遥は隆人と俊介を見比べた。二人ともそんな遥を不思議そうに見ている。  遥は俊介のネクタイを掴んだ。 「俊介」 「はい、遥様」  穏やかに俊介が微笑む。 「お前は俺の世話係なのだから、早く戻ってこい」 「はい」  遥はネクタイを放して、俊介の右手を掴んだ。俊介が慌てる。 「遥様?!」  遥は黙ったまま、俊介の手を両手できつく握りしめた。  俊介の手は温かいが手のひらも指の内側も硬かった。 「湊が居りますし、則之は頼りになる男でございます。ただ、わたくしにも凰様御世話係の筆頭としての矜持がございます。一日も早く遥様のお側に戻れるよう努めます」  そう言った俊介に、遥はようやく手を放した。 「さあ、行くぞ」  隆人が遥の肩を抱いた。その腕を拒みかけて、やめた。  遥は紆余曲折あれども、鳳たる隆人の番の片割れ――凰になったのだ。  風に乗って墓参りをしている人の声が届いてきた。 『加賀谷の御当主様ご家族とともに墓参をなさっていたそうだ』 『なんでも、新しい凰様をお迎えになったそうだ』 『ではあのお若い方がそうだろうか』 『そうだろう』 『ご挨拶せねば』  人々が中央通路を下る遥たち一行に頭を下げる。鷹揚に手を上げて応える隆人の真似はできない。遥は軽い会釈をしながら人々の間を通り抜けた。

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