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墓参(8)
ふもとには桜木の六人が並んで頭を下げ、遥たちを出迎えた。俊介もその左端に立った。
湊と、体格のいい則之は覚えたが、他の四人は名前が結びつかない。
頭を下げた桜木家の面々に、隆人が口を開いた。
「仮の凰の護衛、ご苦労だった。
墓参中に、桜木家を一代限りで一族に戻す件が分家衆の採決で、正式に決まった。分家衆の英断に感謝せよ」
「はっ、ありがとう存じます!」
「今後は凰の世話係として頼む。ただし、俊介はしばらく私が預かる。その間は遥に慣れている湊と年長の則之が中心となるように」
「かしこまりました!」
六人の声がピタリと揃っていた。
隆人は自分の車でそのまま東京に行き、仕事に向かうという。
「お前は本邸でゆっくりしろ」
遥は肩をすくめた。
「いろいろ教えてもらわなきゃいけないことも多いらしいな」
「何でも達夫に訊くといい」
「わかった」
秘書である隼人と隆人が車に乗り込み、俊介が後部座席のドアを閉め、助手席に乗り込む。
皆が出て行く車に頭を下げる中、遥だけは隆人を見ていた。隆人も遥を見ていた。軽く手を振ってやると、隆人も手を上げたのがわかった。
車は瑞光院の駐車場をゆっくりと出て行った。
遥は桜木の六人を振り返った。
「よろしく。まずは本邸へ連れ帰ってくれ」
「かしこまりました」
また、六人の声が揃う。
空を見上げれば、青空が広がっている。目をつぶると深く呼吸をして、目を開けた。
「遥様、どうぞ」
則之が車のドアを開けて待っていてくれた。
遥は「ありがと」と言って乗り込む。「恐れ入ります」と則之が言う。
遥はシートに背を任せ、ふっと息を吐いた。
この時より、遥の本当の意味での、凰としての生活が始まったのだ。
――墓参 了――
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