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中々、面白味があるんだ。苦手なのはやはり、言の葉を乗せる事。 上手くいかず、脳裏に話を掛ける方法を選んだらしい。 ただ、心の声が口から漏れてしまう為、俺的には微笑ましい光景であり、少し残念な気持ちになる。 言の葉を乗せる事を覚えたら、好きな相手にも届けられる筈なんだがな。 彼には難しいかも知れない…。 触れている全てが果たして届くのかと必死に思惟する事から始める。 誰に習ったかは解らないが、解明をしようとあらゆる本を読み漁り、知識を高めていくのも癖だったりするのが靉流の特徴だ。そんな中で苦手な事を克服させようと頑張っても余計、ちんぷんかんぷんになるだけだろう。 彼なりの届け方があるに違いない。 多分、興味を示した場合の話だが。 たまに意識をオペラ中心に飛ばしていて、人の話を流す事も屡々あるからな。 此処だけ気を付けていれば、至って問題無しだ。 「ー…今日は脳裏に話掛けてくる気配無し」 これは、オペラに没頭し過ぎて、父親の存在を完全に忘れているパターン。 『毎日、必ず連絡するからね!』と息込んでいた息子は何処に行ったんだろう。 ガクリと、肩を落とし、俺は来た道を戻って行った。 彼が現実に戻って来るまで静かに見守るとしよう。その為に白鷺の庭を選んだのだから。 此の場所じゃなきゃ、意味を成さない…。 ー…靉流・G・フィニア(あいる・グラーデン)が他人を決して目に触れる事の無い秘密の庭だ。 結界を張ってあるから、家臣達も容易く入って来たりはしない。彼には静寂な場所が合っている。 自然に囲まれながら、小鳥や精霊達の歌や踊りを傍観している方が感受性豊かな子に育つという父親の勘。 これ、我が家の鉄則に加えておこう。 呼鳴…。 久しぶりに飲みたいな。 精霊達の踊りを観ながら、甘酒を。

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