5 / 119

1-2

【樹side】 「ー…あら」 珍しく柔らかな風を吹かせる時もあるのね。 白いレースカーテンが揺れるのなんて、久しぶり過ぎて忘れていたわ。彼が光皇城に赴いた証。 昼下がりの庭で息子を遠くから見ていたに違いない。 「フラれたのかしら?」 首を傾げつつ、考え事をしていた…。 彼処は、誰の目にも触れられない場所(ところ)だから選んだのがモットー。 静かで自然をそのまま保っている庭。少し、空間を歪ませたけど、それも彼の為だった。 一人暮らしの青年が見る世界は、平穏で温かな世界。 シェークスピアが書いた『真夏の夜の夢』の様に、彼も見られるかも知れない。 うたた寝しながら見る夢の中で、今逢いたい人物。有無を言わず、青年はオベロンに逢いたいだろう。 それはオペラをこよなく愛するあまり、是非、拝んでみたいという好奇心。 可愛らしいとこもあるもんだ…。 なんて、今頃、彼が思っているに違いない。 そんな事を思いながら、私は窓から入る風に髪を遊ばせ、眩しい光を眺めた。 靉流が居る世界と私が居る世界は似ている様で似ていない。 ただ、時々、光皇城にある白鷺の庭に繋げて。彼の様子を見に行ったりしているのは心配な事があるから。 ま、気付かれているから隠す必要も無いのだけれど。 「今日は、どんな本に触れたのかしら…」 自分で気に入って買った本かしら? 多分じゃなくても、オベロン関係なのだろう。 何時も、サイドテーブルに置いておくのがベストポジションらしい。他の場所に置いたら、不機嫌丸出しなのを知っているから触れない様にしている。 あれは、父親譲りの部分があるのか、典型的な性格。 屋敷の中は彼が集めた本で埋もれている。 どの本に触れたのか気になり、私はそっと記憶の玉に触れた。 きっと、メルヘンチックな世界なのだろう。

ともだちにシェアしよう!