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第四話:甘い誘惑の先に、君が夜のエチュード
ー天界・光皇城・執務室
窓から入ってくる風にそよがれ、微かな匂いが運ばれてきた。
青年期の頃に何度か嗅いだ事のある香りで、よく知っている人物だ。滅多に拝める訳ではないが、あの場所で、ひっそりと暮らしているのだろう。
そんな風に思うと、思わず、微笑みが溢れてしまう。
何年も顔を見ていないが…。
今なら、美しい青年に成長しているだろう。
「父親似の顔立ちを持つ、母親似の靉流だから…」
少し、おちょこちょいな所が傷だ。
椅子に座りながら、彼の事を思い出していた。
出逢ったのは、丁度、親戚のパーティーに参加していた時だった。男性は暇で、庭先に足を運んだ時にふっと、幼い少年を見かけた。
ま、彼自身は知らない。
何せ、一瞬の出来事で、その後は父親の背中しか見えなかったのを覚えている。
「ー…大叔母様も、粋な事をなさる。彼を、人目に映さず、隠すとは…」
それも、父親が一枚噛んでいると言うじゃないか。
彼の父親は確か、冥界の者だった筈…。
印象を一度、大叔母に聞いたら『さぁ、彼…気まぐれで。秀才だから…』と具体的な事は教えてくれず、唖然とさせられた。
男性は、ポカーンとなった顔を引き締めた。
最早、説明が簡単過ぎて、重要な部分を聞くのを忘れていたのを後から思い出したが。時既に遅し、彼女は居なくなっていた。
なので、彼は自分の中で青年の父親の顔を想像内で描いた。
言葉では表せられない人物になった。
ー…エゲツない姿。
長身で、ニタリと笑う表情なんて。
本当に靉流の父親か。
と、彼は自分にツッコミを入れられずにはいられなかった。
想像してしまったのは仕方ないので、このまま貫き通そうと、男性は胸に誓う。
「アズイ・G・フィニアって…こんな感じで良いのか?」
どう見たって、悪どい感じがしてならない。
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