53 / 119
5ー9
何たって“貪欲の神”と、言われているくらいですもの。
普段は、裏の顔を、隠しているみたいだが、本当は、嫉妬深く、爪が長いお方だと、心得ているからこそ、娘の許婚として、紹介された時、正直、困った。
それでも、彼は、レイナの前では、優しい表情を、浮かべるから。
今は。
ー…見守っているしかない。
「そう。気配だけを、感じたのね」
「だけど、お顔を、拝見したら…きっと、素敵な殿方なのでしょうね。今度…逢えたら、一曲、お相手、願おうかしら…」
楽しそうに、話をする彼女。
これは、婚約破棄に、持っていくチャンスかも知れない。
そう考えると、ギリセに、相談するしかないわね。
『君も、知ってのとおり…私は、娘に、天界を担わす役目を与えている。それは、上の兄二人には、出来ない事だ。レイナは、特別な生まれ方をしているのは、承知だね』
ー…えぇっ。
魔界帝国、五大王族の最高峰に立つ『ブルブェニ』の主、セリオン。
そして、天界王族の最高峰に立っている『リオ』。私の夫にあたる神王ギリセ。
後一人…。
この世で、儚げで、ミステリアスな雰囲気に包まれた唯一の女性。
冥界王族最高峰に立つ『フォルテッシモ』の主である冥王アイリス。
そんな三人の力を、持って、生まれたのが“レイナ”であった。
だけど、実際は、どうなのかは、解らないけれど。
髪色は…。
ー…二番目の兄と、同じなのよね。
本人曰く『ギオン兄様と、同じですわ。私のは、隔世遺伝ですけど』と、嬉しそうに言っていたけど、その後に『本来なら…』と、口慎んだのが、気になった。
「きっと、逢えますわ。だって、貴女は、私の娘ですもの」
「有り難う御座います。シエティーお母様。やっぱり、母様が選んだ相手だけあります。ですから、今日の事は…」
ふんわりと、微笑んでいたレイナが、真剣な表情になって、私の顔に、小さな手を添えた。
すると…。
急に、視界が歪んでいった。
ともだちにシェアしよう!