57 / 119
5ー13
不思議な不思議な夢の中。
さざ波に、揺られている感覚に、襲われた彼は、目を覚ました。
時計を見ると、軈て、夜中の二時を指そうとしていた。
夏だとはいえ…。
窓を、開けていたせいか。
そう…。
思い。
ベッドから、降りて、窓を、閉めようとした瞬間、広がる世界に、唖然とさせられた。
「…此処、何処」
思い返せば、仕事の疲れと、契りを交わす事を、考えていたせいで、ベッドにダイブしたのは、覚えている。
確かに、夏は、精霊が、時折、迷い込んでくると、聞いた事はあるが、生憎、二十年間、生きてきた中で。
経験した事が、無いので、頭の中で、除外した。
だとすれば…。
「樹か」
もし、これが“彼女”だったら。
ほんの少し、頬を染めるアズイは、瞳に、映された光景を。眺めつつ、彼方此方に、飛び交う光の玉が生まれてくる瞬間を、灼き付けた。
こんな、幻想の世界を…。
冥界に。
ー…持ってこようとは。
「少し、洒落たシチュエーションじゃないか?何も、普通に、逢いに来れば、良いのに」
何処かで、女性が聞いていたら『ふふっ』と、微笑んでいるのであろう。
例え、其処が、夢の世界だとしても、彼には、解る筈が無い。
緻密に、作り上げられた世界は。
新たな魂が、魅せる世界なのだと。
『小さな魂が、運ばれるのは、素敵な紳士の元に、舞い降りた贈り物でした…』
真夏の暑さを、吹き飛ばすぐらいに。
爽やかな男性へと、成長しているでしょう。
「鳴呼、花の精霊か。何処からともなく、柔らかい感じのトーンだな。精霊の王“オベロン”も、粋な事をなさる。今度、聖霊界へ、妻となる者と、顔を出すとしよう」
ー…それは、止めておいた方が良い。
夜空に浮かぶ、星々が、叫ぶ。
ー…彼女の掟が、存在する。
しかし、声無き声が、アズイには、届く筈なく。
あまりにも、幸せそうな顔をするもんだから…。
花の精霊は、言えなかった。
この夢殿に…。
ー…案内したのは。
天界を、跨ぐ、姫君なのだと。
時空の流れに沿い、一つの星が輝くのを見つめた。
ともだちにシェアしよう!